研究課題/領域番号 |
15H05160
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
小口 雅史 法政大学, 文学部, 教授 (00177198)
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研究分担者 |
片山 章雄 東海大学, 文学部, 教授 (10224453)
辻 正博 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30211379)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 比較史 / 敦煌出土文書 / 吐魯番出土文書 / 史料学 / 東アジア古文書学 |
研究実績の概要 |
本研究は、基本的に、敦煌・吐魯番出土文献研究で従来等閑視されてきた、断片を多く含むコレクションに着目し、それらがコレクションを越えて接続する事例(群外接続)を発見することによって、新しい東アジア古文書学を切り開くことを目的としている。これまであまり注目されてこなかった欧州・中国のコレクションや新発見の出土文献群の全体像を正確に把握し、高精細画像など精緻なデータを集積しながら、断片接続事例を次々見いだしてきた。蓄積してきた断片データの増加やその精度の向上と、高精細画像の活用法の向上により、接続例の蓄積が毎年着実に進んでいて、ベルリンのコレクションを軸にヘルシンキや旅順との接続例については、研究分担者の片山章雄を中心とした一連の業績によって公開されている。 またコレクションを越えて接続する事例が発生する事由を確定する作業も引き続き実施した。この理由として近年想定されてきた、現地における複数の探検隊による分割購入に由来するという考え方は、ほぼ間違いないと思われる。その確定のための欧州諸探険隊や日本の大谷探険隊等の調査日記の突き合わせも進んでいて、最も重要なフィンランドのマンネルヘイムの探検日記も精読中で、多数の言語で出版されている各日記における日付のずれが問題となっているが、その理由如何に関わらず、同じ場所での複数の探検隊の購入事例は確実に存在する。日付のずれについてヘルシンキ国立博物館のマンネルヘイムコレクションの管理責任者や、退職後もなお研究活動を続けているH.Halen氏の協力も得て、鋭意解明中である。 また購入したコレクションにおいて断片が接続するという仮説にもとづいて、調査対象をいろんな分野に広げている。近年日本で売買される古文書類の中にも、他のコレクションの断片との接続例があることも確定できた。 以上の成果を持って、最終年度の総括国際シンポに臨む準備に入っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に達成されたフィンランド国立図書館・ヘルシンキ国立大学等の運営するDORIA Web Archiveシステムを通じて、研究代表者が撮影した高精細デジタル画像が全面的公開されたことによって、科研チーム内に限らず世界各地の研究者からの情報提供を期待できるようになった。それによって漢文仏典のコレクションを越えた、いわゆる群外接続例が増加している。とくに現在、旅順博物館が管理している大谷探検隊の収集コレクションとの群外接続例の増加については、旅順博物館長王振芬氏に高く評価していただき、その旅順で開催された「新疆出土文獻與絲綢之路」国際学術検討会には、研究代表者小口雅史をはじめとして本科研チームの主要メンバーが参加要請され、その報告後には、断片類の群外接続を明らかにしてきた学術的意義について、現地のコメンテータからも新しい史料学の可能性を開くものとして高い評価を受けることができ、懇親会の場でも多くの中国側の研究者から質問を受けることとなった。 こうした本科研チームによる作業の知名度の向上もあって、断片接続について寄せられる情報も増加している。しかしながらこれまで同様、誤解にもとづく情報や、直接接続するのではなく同じ紙面の離れた場所にある可能性のある断片統合例などが含まれ、本科研チームであらためて慎重に検討した上で確定させる作業は欠かせない。 また漢文仏典以外でも、史書典籍類や医学書の群外接続が相次いで明らかになっている。さらにサンクトペテルブルクのロシア科学アカデミー東洋写本研究所所蔵コレクションと旅順博物館所蔵コレクションとの間での接続例も新たに見いだされているので、全体の総括に向けての研究態勢は十分に整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前記したように、これまで蓄積してきた事例の増加によって、最終年度に全体を総括する国際シンポジウムの開催が十分に可能になっている。そこで群外接続が明らかになっている海外の所蔵博物館の代表者を日本に招聘し、加えて本科研チームから分野ごとに報告者を用意するほか(漢文仏典、梵文仏典、法律書、占卜書、史書文学作品などについては本科研チーム内で手配する予定である)、医学書のような専門性の高いものについては、本科研チーム以外からの専門家の参加要請も必要で、開催予定の国際シンポジウムでの登壇について、すでにそうした専門家から参加の内諾をほぼ得ることができている。その他、本科研チーム以外からの参加者についても、第三者評価(外部評価)に当たるものとして選定を進めていきたい。参加内定者にはこれまで内部資料として蓄積してきた本科研チームの成果を事前に送付して検討してもらうこととしたい。また旅順博物館のコレクションが大谷探検隊の収集品であることから、龍谷大学の協力も必須で、これについても協力の内諾をおおむね取り付けている。 次年度の12月ころに東京と京都の2カ所で国際シンポを開催して最終総括とするが、その準備と並行して、未調査の断片類の調査・画像収集も、とくにサンクトペテルブルクなどを中心に、これまでの研究精度を高めるために、事例のさらなる蓄積を目指して、従来通り実施することにしている。 なお依然として所蔵者側の事情で調査に入れずにいる、いまだ日本からの本格的調査が及んでいないミュンヘンや、2015年度に簡易調査のみ実施しているブレーメンのコレクション、あるいは高精細写真だけは入手できたイスタンブル大学の所蔵コレクションなどについても断片接続調査の可能性を探ってみたい。
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