研究課題/領域番号 |
15H05163
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
河合 望 金沢大学, 新学術創成研究機構, 准教授 (00460056)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 考古学 / エジプト学 / 古代エジプト / 新王国時代 / サッカラ / 墓地 / 踏査 / 古地図 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来のエジプト南部の中心地であるテーベの墓地の資料に偏重した古代エジプト新王国時代の文化史を是正すべく、エジプト北部の中心地メンフィスの主要な墓地であるサッカラ遺跡における新王国時代の墓地の考古学的発掘調査を推進することを目的としている。 初年度には、サッカラ遺跡における新王国時代の墓地に関する既往研究の調査、古地図の収集、人工衛星画像の解析等による現地調査の準備を進める一方で、エジプト政府考古省よりサッカラ遺跡の踏査の許可を申請したところ、諸事情にてようやく2016年に許可を賜り、2016年5月にGPSを駆使した踏査を実施した。踏査の結果、北サッカラ地域に数カ所の新王国時代の墓地が存在すると思われる有望地点が明らかとなった。中でもテティ王ピラミッドの北西部に約100,000㎡の規模の広大な新王国時代の墓地の存在を初めて明らかにした。この地区は大規模な盗掘は受けているものの、これまて考古学的な発掘調査が行われていない。確認された遺物の傾向としては、古王国時代第 4 王朝の土器が当該地区全体で検出され、新王国時代の土器は第 18 王朝初期から中期の土器が当該地区の東側に 集中し、第 18 王朝後期からラメセス朝の土器が西側に集中する傾向がみられた。おそらく、この地区では 古王国時代に墓地が形成され、長い断絶の後、その上に東側から徐々に新王国時代の墓が造営されたと推定された。当該地区には約 500 ヶ所のクレーター状の窪みが観察され、これらはシャフトや壁体などの痕跡とみられる。舌状の丘陵の西側には、考古省が発掘調査を行った古王国時代のカエムメスウのマスタバ墓の周辺には新王国時代に年代付けられるとみられるシャフトが散在し、同時代の土器も多く確認された。今後は、これらの箇所でさらに物理探査と微地形測量等を実施し、今後の発掘調査につなげていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エジプト考古省からの許可の問題で調査の開始が遅れたが、GPSを駆使した綿密な踏査によって新王国時代の墓地が存在すると思われる有望地点を確認することができた。中でも学史上存在が知られていなかった約100,000㎡の規模の新王国時代の墓地の存在を明らかにすることができたのは大きな成果であった。踏査で表採された遺物の分析から、当該地区は古王国時代に墓地が形成されたが、長い断絶の後、新王国時代になると東側から第18王朝時代初期に墓地が形成され、徐々に北西に拡大していった様相が推定された。本成果は、サッカラ遺跡における新王国時代の墓地の研究に新たな情報を提示し、今後の発掘調査におけるおおきな可能性を示すものであり、本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の踏査の成果を踏まえて、新たに明らかになったサッカラ遺跡における新王国時代の墓地が存在すると推定される地区の微地形3次元測量と物理探査を実施し、より詳細な地下埋蔵遺構の情報を得ていく予定である。その成果を受けて、有望な地点数カ所において試掘を実施し、本格的な発掘調査につなげていきたい。 試掘によって新王国時代の墓が検出された場合、本格的な発掘調査を開始し、遺構、遺物、出土文字資料、図像資料などの調査研究を進めていく。 発掘調査にあたってはこれまでの伝統的な方法から、出土遺構の3Dモデルを作成しつつ、より迅速で的確な調査方法を模索しながら、新しいエジプトでの考古学的発掘調査の方法を確立していきたい。 また現場での調査研究の成果をまとめた報告書、論文などの刊行物やウェブサイトを国内外に積極的に発信し、今後の当該遺跡での長期的な発掘調査が可能となるよう、科研費の申請を見据えて、調査研究を推進していく所存である。
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