本研究は、従来のエジプト南部の中心地であるテーベの墓地の資料に偏重した古代エジプト新王国時代の文化史を是正すべく、エジプト北部の中心地メンフィスの主要な墓地であるサッカラ遺跡における新王国時代の墓地の考古学的発掘調査を推進することを目的としている。 2017年の調査では、予てから海外の研究者に新王国時代の高官の岩窟墓の存在が推定されている北サッカラ台地の東側斜面において踏査、探査、試掘調査を実施した。踏査の結果、4箇所が新王国時代の遺構が存在する有望地点として選定され、そのうち2箇所で物理探査を実施した。最終的には、2016年の踏査で新たに発見した新王国時代の墓地の東側に位置し、これまで新王国時代の墓地が確認されていたテティ王のピラミッド北墓地にも近い東側斜面の通称C地区で試掘を行なった。試掘の結果、表層から近い位置から末期王朝時代からプトレマイオス朝時代に年代づけられる手付かずの単純埋葬が20基以上検出された。また、トレンチ内の堆積層は、新王国時代第18王朝に年度愛づけられる遺物を多く包含しており、近辺に同時期の墓が数多く存在することが推察された。そして、トレンチ下部に設定したサブトレンチの発掘から、おそらく新王国時代頃に造られたと思われる人為的なタフラ層(粘土質の石灰岩層)の硬化面が確認された。さらに、トレンチの西側の最下部からは、岩盤の露岩域が検出された。この岩盤の露岩域は、サッカラ遺跡の他の地域の新王国時代の岩窟墓が位置する特徴と類似している。おそらく、この露岩域の下に岩窟墓が穿たれている可能性が推察され、タフラ層の硬化面は墓の前庭部のようなプラットホームとして機能していた可能性も推測された。今後、科学研究費補助金を申請し、本格的な発掘調査を実施していきたい。
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