研究課題/領域番号 |
15H05164
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
上杉 彰紀 関西大学, 研究推進部, 非常勤研究員 (20455231)
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研究分担者 |
米田 文孝 関西大学, 文学部, 教授 (00298837)
長柄 毅一 富山大学, 芸術文化学部, 教授 (60443420)
清水 康二 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部, 主任研究員 (90250381)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 南インド先史文化編年 / 南インド新石器文化 / 南インド巨石文化 / 文化変容 / 文化交流 |
研究実績の概要 |
平成28年度には、①南インド新石器文化および南インド巨石文化に属する遺跡の分布調査と②これら2つの文化に属する遺物の記録化・分析を中心に実施した。 まず①遺跡の分布調査では、平成28年11~12月および平成29年3月にマハーラーシュトラ州政府考古局ナーグプル支局と共同で、マハーラーシュトラ州東部のナーグプル周辺に所在する遺跡の調査を行なった。特にマッリ遺跡では1km×1km以上の範囲に及ぶ古墳群の広域写真測量調査を実施し、古墳の分布と地形の関係の把握を可能にする成果を得た。また、平成29年3月にはハイデラーバード国立大学歴史学科と共同で、テーランガーナー州、アーンドラ・プラデーシュ州に所在するチェードゥ・グッタ遺跡、ネッコンダ遺跡、ガディガレヴラ遺跡、カリヤーンドゥルグ遺跡、クムティ遺跡、パーラヴァイ遺跡などを訪れ、古墳の分布図作成や、新石器文化期、巨石文化期の遺物を表面採集を行なった。 ②遺物の記録化・分析では、平成28年5月にケーララ州立大学(トリヴァンドラム)、11月にケンブリッジ大学考古学・人類学博物館および大英博物館(英国、ケンブリッジ、ロンドン)、11~12月にマハーラーシュトラ州政府考古局ナーグプル支局(ナーグプル)、平成29年3月にユニオン・クリスチャン・カレッジ(アルヴァ)およびハイデラーバード国立大学歴史学科(ハイデラーバード)において、各機関が収蔵する土器、石器、石製装身具など、南インド新石器文化、南インド巨石文化を特徴づける遺物の記録化を行なった。またマハーラーシュトラ州政府考古局ナーグプル支局では、マッリ遺跡出土の製鉄関連資料の調査を行い、分析サンプルの提供を受けるなど、製鉄技術の復元に有益なデータを得た。このように南インド先史文化編年の構築にとって重要なデータを多く得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去2年の調査で、現地の研究機関との共同で、南インド新石器文化、南インド巨石文化に関わる遺跡の分布調査を実施し、遺跡の立地や古墳の分布、地形との関係など、これまで十分に研究の対象となってこなかった遺跡の要素の把握と記録化を行うことができた。本研究課題の中心テーマとしている南インド先史文化編年の構築において、上記の遺跡構成要素の把握は不可欠であり、南インド先史時代における文化変遷と地形環境との関係や、遺跡利用のあり方について知見を得ることができたことは本研究課題において大きな成果である。 また、南インド各地で新石器文化、巨石文化に関わる遺物の記録化を実施し、基礎データを得ることができたこともまた、南インド先史文化の時間的・空間的変異の把握にとって大きな成果となっている。特に土器の記録化・分析によって新石器文化から巨石文化への変化の過程、巨石文化の拡散・変容過程を明らかにする上で貴重なデータを得ることができ、また石製装身具の調査では南インド先史文化の変遷における北インドとの関係を示すデータを得ることができた。これらの調査によって、単に文化の変化を静的に把握するのではなく、交流、交易や技術伝播、資源利用などの社会的背景と関連づけて動的に理解することが可能になりつつある。 その一方で当初計画していた発掘調査の実施が滞っていることは、本研究課題の進捗状況を評価するにあたって大きな問題である。その理由には現地研究機関との共同調査に関してインド政府考古局からの許可がおりなかったことや、大学間の協定書の締結に時間がかかっていることなどがある。残り2年間の研究の中で、これらの問題をクリアし、分布調査と組み合わせて発掘調査を実施することにより、文化変遷の過程より明確に把握したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前項で述べたように、南インド新石器文化、南インド巨石文化の分布調査と遺物の記録化・分析はきわめて順調に進んでおり、平成29年度以降も同様の調査を継続する予定である。現地研究機関との共同調査体制は良好であり、平成29年度にも、より多くの遺跡において分布調査を実施する予定である。また、平成28年度の調査で、イギリスの研究機関(ケンブリッジ大学考古学・人類学博物館、大英博物館)にも南インド先史文化に関わる多くの資料が収蔵されていることが明らかになっており、その詳細な記録化・分析を継続することにより、データの蓄積を進める予定である。 上述のように、発掘調査の実施についてクリアすべき問題があるが、平成27・28年度に現地研究機関が実施した発掘調査で出土した炭化物試料の提供を受けて年代測定を日本国内で実施しており、間接的ながらも分布調査の成果を補完するデータを得ている。発掘調査の実施の可能性を模索しつつ、補完的なデータを得ることにより、研究目的が達成できるよう調査・分析を進めていく予定である。
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