研究課題/領域番号 |
15H05173
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
西川 麦子 甲南大学, 文学部, 教授 (20251910)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多文化社会 / メディア戦略 / コミュニティメディア / 草の根の活動 / コミュニティラジオ / ZINE / アクティブ・ラーニング / グローカル |
研究実績の概要 |
多文化社会における地域やコミュニティに拠点をもつ小さなメディアの機能と可能性を探るため、A英米でのコミュニティ活動とメディア戦略に関する「現地調査」、B現地調査の成果を取り入れた「メディア実践」、C日本の「大学教育」において、ABの成果を取り入れたアクティブ・ラーニングへの応用、という3つの方向から調査研究、実践をすすめた。 A現地調査では、8月に米国、イリノイ州において、トランプ大統領政権下における厳しい移民政策に対する草の根の活動の展開に注目し、Champaign-Urbana Immigration Forumなどの活動を参与観察した。9月には、英国、ロンドンで、1968年にNotting Hill Pressを設立したアイルランド出身の活動家へのインタビューや、今日のZine(自主制作冊子)を扱う書店等への取材を行った。Bメディア実践については、米国イリノイ州のコミュニティラジオ局WRFUの日本語ラジオ番組Harukana Showを主宰し、日本からインターネットを利用してラジオ局とつなぎ毎週1時間の番組を制作・放送・配信し、放送記録を編集、制作し、番組サイトにアーカイブとして掲載した。C大学教育においては、現地調査とメディア実践の成果を社会調査やメディア関係の授業に取り入れ、表現・協働・発信力を培うアクティブ・ラーニングへの方法として応用した。例えば、フィールドワークの方法論の授業では、受講生が取材内容を冊子にして展示する「ZINE大会」を実施し、メディア実践系の授業では、大学の教室と米国のWRFUラジオ局のスタジオをつなぎ、受講生が日本から番組を制作し地域(米国)にラジオ放送しオンラインで配信した。こうしたグローカルな現地調査・メディア実践・大学教育の方法を、大学教職員、ラジオ番組スタッフと協力し論文や教材映像を制作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英米国の現地調査、メディア実践、大学教育をおおむね計画通りに進めることができた。米国においては、トランプ大統領のもとでの移民やメディアに関する政策は、本研究対象となる多文化社会における移民問題や住民活動、地域メディアの利用にも直接に影響している。グローバルな政治的変化とローカルな社会の動きと地域メディアの可能性を調査するうえでは、本研究課題は時機を得たテーマであるが、研究計画では想定しない事態にもしばしば直面した。ロンドンにおける調査においては、1960年代のコミュニティ活動と地域メディア作りについて知る貴重なインタビューを行うことができた。これらの現地調査から知り得た情報の一部は、アメリカのコミュニティラジオの番組においても、随時に発信している。現地での情報収集に多くの時間と労力を費やし、調査記録を整理し考察を深める時間を十分に確保できなかった。 大学教育においては、現地調査、メディア実践において築いてきた関係に基づいて、実験的なアクティブ・ラーニングの試みを行うことができた。授業の実習として、甲南大学の教室と米国WRFUラジオ局をインターネットでつないだ受講生によるラジオ番組制作・放送・配信を行った。大学の教職員や、米国の地域メディア(Urbana-Champaign Independent Media Center)や日本語ラジオ番組スタッフからの全面的な協力を得て、現在利用できるシステムや機材を用いて、日米をつないだメディア実践を行うための試行錯誤を重ねてきた。学生たちは、番組政策だけでなく、多様な人々が協働する「メディア作り」のプロセスを学ぶことができた。メディア実践の授業について大学の中でも勉強会を重ね教職員と情報を交換し、その成果を単・共著論文としてまとめ、メディア実践の記録映像を制作した。これらを教材としてどのように活用していくか検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本科研の最終年度として、調査研究、メディア実践、アクティブ・ラーニングの試みを論文や学会発表を通して公開し、海外の研究者とも情報交換を行いながらまとめていきたい。 調査研究の進め方としては、本課題の当初の計画とおり、A現地調査は、コミュニティ活動とメディア戦略についてのフィールドワークを英国と米国において行い、Bメディア実践は、米国のコミュニティラジオ局の日本語番組制作に携わり、C大学教育において、調査と実践の成果を応用したアクティブ・ラーニングを大学の授業で実施する。 本研究課題の対象地域となっている英米国においても、自国第一主義の傾向が強くあり、マスメディアと国家権力の関係が注目される一方で、多様な声を伝え続ける草の根の活動とオルタナティブメディアについての研究は今後、どの社会においても重要になる。本研究の特徴は、調査・実践・教育を並行して進め、それぞれの成果を取り入れながら、海外の地域メデイアから公開、発信し、小さなメディアの機能と可能性を多角的に探っていくことにある。こうした実践から学ぶメディア研究のフィールドワークを、「特異な事例研究」として終わらせるのではなく、その成果を広く情報交換するプラットフォーム作りが中長期的な今後の研究の課題となる。 グローバルな情報化時代にハイパーローカルなメディアが人と人、場所、情報をつなぐツールとしてどのような意味を持つのか、今後のさらなる調査研究を展開するために、米国の調査地にある大学の研究者らと、地域メディアや大学のアウトリーチの活動(大学と地域の図書館、NPOのメディアセンターとの連携など)と、これらを取り入れた大学の授業作りについての具体的な情報交換を進めていきたい。
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備考 |
「メディア文化論」(甲南大学文学部社会学科)のメディア実践のドキュメンタリー映像『聞こえますか』(Thomas Garza編、HARUKANA SHOW org.2018)短編22分48秒、長編41分46秒は、教材として甲南大学教育コンテンツ(mediasite)から閲覧可能であるが、ID、パスワードが必要。上記"KIKOEMASUKA?"は、英語短縮版3分42秒は、Youtubeで限定公開。
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