研究課題/領域番号 |
15H05193
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
北川 慶子 聖徳大学, 心理・福祉学部, 教授 (00128977)
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研究分担者 |
川口 一美 聖徳大学, 心理・福祉学部, 准教授 (00352675)
日野 剛徳 佐賀大学, 学内共同利用施設等, 教授 (20295033)
須田 仁 聖徳大学, 心理・福祉学部, 准教授 (40369400)
榛沢 和彦 新潟大学, 医歯学系, 講師 (70303120)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生活満足度 / 衛生習慣 / 土壌汚染 / 健康被害 / 防災意識 |
研究実績の概要 |
モンゴル被災遊牧民の希望の丘ゲル地区に発生する「新たな被災と貧困の負の連鎖」研究は、以下の目的にしたがって、2年目の研究を実施した。 近年の気候変動により、比較的安全であるとされてきたウランバートル市(人口150万人)郊外の貧困層が多く居住するゲル地区(75万人)でも、冬季の冷害・雪害と夏季の洪水・土砂災害のリスクが高まってきている。その被災者数は124万人/3年であり、多くの被災者が移住するゲル地区は上下水道がない地域である。ゲル生活は、遊牧生活習慣を継続した「堀穴トイレ」であり、バキューム車の利用は限られており、糞尿は数年にわたり処分されずに放置され、満杯になると別の穴を掘りトイレにするということが繰り返されてきたため、土壌汚染も進んでいる。これまでに「水系健康被害者」を46万人発生させ、被災者は医療費の負担に苦しみ貧困化していくことにかんがみ、ゲル地区災害危険地域へ移住した遊牧民の安全・防災意識の調査、遊牧生活暦調査、生活満足度調査、衛生・健康調査を実施し、被災遊牧民⇒ゲル地区⇒再被災⇒貧困化を解明する手掛かりとした。 2年目の調査研究は、ゲル地区への移住が1990年代以前からの比較的古い地域(区)と新興入植地域(区)における防災・健康に関する調査を実施した。モンゴルの経済状況は前年より悪化し、失業率は30%を超えた地域もあるため、移住の理由と経済生活(就業と収入状況)と生活習慣と健康状態、ゲルから衛生状態が良いアパートへの転居意識、トイレ等衛生意識に関する環境、生活満足度についての住民意識調査を実施し、地域(区)毎の住民意識を比較することができた。両地域(区)の住民の意識の差はあまり見られないものの、年数の長い移住者は、豊かになり戸建ての家の建築も可能になって、生活満足度が高いが、新興地域(区)では、遊牧生活と比較しての満足度であり、満足度の質的差異が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究によるモンゴルウランバートル市ゲル地区における調査研究は順調に推移している。 当初計画以上に本研究が進展しているという理由は、2015年度から引き続き行ってきているところであるが、2016年度は、ほぼ1か月おきに現地のJICA事務所および日本大使館を訪問し、現地の事情をとらえるとともに、本研究の研究成果物を提出し、相互に情報交換してきている。それによって、モンゴルJICAからアジア開発銀行のウランバートルの環境汚染解決プロジェクトへの本研究の紹介があり、同プロジェクトの会議にも参加することができ、調査研究が円滑さを増した。 また保健省、ウランバートル市役所との研究データの共有の申し出があり、ゲル地区の住民の意識調査は本研究が初めてであったために、地区長の協力が得られると同時にモンゴル医科大学の協力が得られた。ゲル地区住民2000人を超える人々への調査は、英語による調査票をモンゴル語に翻訳し、さらにそれを地区長が配布し、識字率が高くない住民が多く、調査の趣旨説明と調査項目の読み上げ、回答記載の補助協力を得られた。地域の関係者との頻回の対話によるコミュニケーションが信頼関係を築き、調査を可能にした。ただし、この手法による調査研究のため、調査期間は9月から1月までを要した。極寒の中でも地道な協力が得られ所期の目的も達成された。 さらに、本調査研究は、ゲル地区の人々の多くは、健康保険制度はあるものの全住民の利用に至ってはいないため、皆保険制度の日本の状況を保健省や地域関係者に資料の提供や説明することとなったこと、また、罹患と病床の充足率のミスマッチのため、退院計画が必要であることを提言できたのも本研究からの成果であったといえる。 さらに、病院および介護施設に関する取り組みへの助言を積極的に行う中から、富裕層の日本への医療観光のための医療通訳協会の設置にかかわることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度のウランバートル市に近いゲル地区の生活実態調査(安全生活)の調査から明らかになったことは、災害への無関心層が多いということであり、生涯健康への関心も低く、生活満足度は高いという結果をえた。平成28年度は、ウランバートル市ゲル地区の住民(75万人)のうち、移住時期の異なる2地区の住民の1%(1000人×2=2000人)調査を実施した。それにより新興ゲル地区住民の失業率は30%であるものの生活満足度は高く、旧移住者は、経済的安定性、居住環境の良好な地域の一戸建てに居住するため、生活満足度は高いことは想定していたとおりであるが、環境の悪化を不満に思う比率が高くなってきており、健康志向は高く、したがって栄養にも配慮する傾向がみられる。さらに富裕層は韓国、日本などでの医療観光を定期的に行うなど先進国に近づいてきており、経済格差はさらに広がってきつつある。 したがって、平成29年度の調査研究は、ニューリッチ層といわれるゲル地区の住民および就労が不安定であるが自立している住民、貧困層の住民に対するインタビュー調査を実施し、質問紙法による調査結果の分析をされに具体的にとらえることとする。 これらの調査を実施した後に、3年間の調査結果を総合してモンゴルの自然災害の被災者が移住したゲル地区での生活状況と環境の悪化が人々の生活および健康への影響を「被災が引き起こす貧困化」を実証することを目指す。 そして、本研究の主眼目である遊牧民が自然災害に遭遇し、すべてを喪失した後聖愛k津債権のために移住した希望の丘であるはずのゲル地区が、実はそこでも土砂災害や健康被害をもたらす地域であり、経済状況と健康状態は悪化していく負のスパイラルに陥る危険性が大きいことを住民が覚知し、自立へ向かうような提言を行いたい。
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