研究実績の概要 |
前年度に引き続き,タイ・バンコク市内の下排水処理場から採取した汚泥試料から,高濃度の抗菌薬を添加したLB培地で培養し,薬剤耐性を示す汚泥細菌の分離を行い,16SrRNA遺伝子のアンプリコンシークエンスにより,その細菌群集構造を明らかにした。まず,都市下水処理施設3カ所に存在する活性汚泥細菌の構成は類似しており,Proteobacteria門やChloroflexi門の細菌が優占していた。この汚泥を抗菌薬無添加のLB培地で培養すると,Enterobacteriaceae科やMoraxellaceae科の細菌が増加したが,アモキシシリン,アンピシリン,シプロフロキサシンを添加した条件では,Enterobacteriaceae科の細菌の割合が増加し,同科における耐性菌の存在が示唆された。同じくバンコクの病院や大学の排水処理施設で採取した汚泥試料に関する解析結果は,都市下水処理場の結果と顕著な相違がなかった。 下水処理場施設の最初沈殿池~曝気槽~最終沈殿池の各プロセスにおける薬剤耐性菌の挙動を6つの薬剤耐性遺伝子(blaTEM, tetW, qnrS, sulI, vanA)を対象として調べたところ,どの薬剤耐性遺伝子も二次処理後には流入下水よりもやや減少するかあまり変わらなかった。sulI以外は初沈または曝気槽でやや増加する傾向が見られたが,終沈で減少する結果となった。下水処理施設の各プロセスにおける曝気条件と撹拌条件が大腸菌の薬剤耐性誘導への影響を室内実験にて調べたところ,薬剤耐性は曝気槽を模倣した条件下で最も多く発現している可能性が示唆された。 当初に予定したプラスミド上の遺伝子の解析には至らなかったが,処理場の特徴(運転条件を含む)による耐性菌や耐性遺伝子に及ぼす影響を議論できる結果を得た。
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