これまでの標本調査により,対象植物であるCallicarpa saccataの基準標本が,本研究でインドネシアからすでに得られていた標本と異なる形態特徴を有することがわかり,当該種の基準産地であるボルネオ島のマレーシア・サラワク州において,2019年度に調査と採集を追加で行うことになった.その結果,多少の形態的変異は認められるものの,これまでにインドネシアから得られていたサンプルと大きな違いはなく,同種として扱うことが妥当であると判断された.そこで,サラワクから新しく得られたサンプルも追加して,形態形成および遺伝的解析の実験を継続して行った.また,新たに得られた近縁種との形態比較も行なうことができた. 形態形成に関しては,よく似た形態をもつ他のノボタン科のアリ植物との比較を行ったところ,ともに基部の葉身が膨らんで袋になるという,共通した発生様式を示すことが明らかになった.遺伝的背景としては,シロイヌナズナで葉身の形態変異をもたらすことが知られているBOP遺伝子と相同のBOP1/2の配列を決定し,アミノ酸配列として機能している可能性を示すことができた.また,葉身の発生過程において,KNOX1遺伝子が葉身基部で発現していることが確認されたことから,この遺伝子が袋状構造をつくる要因となっていることを明らかにすることができた.
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