周極域亜寒帯林におけるコケおよび地衣類による炭素・窒素蓄積に対する温暖化影響を明らかにするために、アメリカ合衆国アラスカ州フェアバンクス市近郊のアラスカ大学フェアバンクス校所有の約100年生のクロトウヒ林において、林床のコケおよび地衣類の分布状況が異なる斜面上部、中部、下部で、林床からの二酸化炭素放出量、有機物層中の温度、水分率、主要なコケおよび地衣類直下のモノテルペン濃度を季節毎に測定した。どの地点でも温度が高いほど二酸化炭素放出量は増加し、夏に大きくなる季節変化を示した。しかしながら、二酸化炭素放出量の地点間差については、温度や水分率で説明することはできなかった。一方、有機物の分解速度を低下させることが知られているモノテルペン濃度についてみると、コケ類の被覆率が高く、二酸化炭素放出量が小さい斜面上部で高く、逆に、地衣類の被覆率が高く、二酸化炭素放出量が大きい斜面下部で低くなっており、コケおよび地衣類の被覆状況によって、モノテルペン濃度に違いが生じていることが明らかになった。これらのことは、温暖化は土壌からの二酸化炭素放出量を増加させるが、コケおよび地衣類の被覆状況の違いが、炭素・窒素蓄積過程の地点間差に大きく寄与する可能性を示している。今後の課題には、コケや地衣によるモノテルペンの生成速度、そして、どのようなモノテルペンが実際に炭素・窒素蓄積過程に影響をおよぼしているかを室内培養実験等により定量的に明らかにすることが挙げられる。
|