研究課題/領域番号 |
15H05243
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
濱田 穣 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (40172978)
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研究分担者 |
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (00177750)
田中 洋之 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (20335243)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マカク / 進化地理学 / アジア / ゲノム解析 / ブラマプートラ河 / 系統地理学 / コロブス |
研究実績の概要 |
中国、雲南省西部のタンルウィン河、メコン河、その間の山脈部分で大理大学と共同研究として分布状況と資料収集、調査を行った。この地域はアッサムモンキー・アカゲザル・ベニガオザルの分布北限にあたり、霊長類の東西交流における重要な地域である。チベットモンキーに似たアッサムモンキー近縁分類群が見つかるなど、興味深い資料が得られた。この地域の西にあたるミャンマー北部で霊長類の分布と遺伝的資料の収集を行った。インド東北地方のアッサム州で、アカゲザル・キタブタオザル・アッサムモンキー・ベニガオザルに関する調査を東北インド霊長類研究センターとともに行った。とくに、注目されるアッサムモンキーは、ヒガシアッサムモンキー(Macaca assamensis assamensis)であろうと思われるが、尾長の変異が著しく、45~65%の尾長の個体群が見出された。またアルナーチャルプラデシュの東部におけるM. leucogenysの形態学的特徴を調査した。ネパールの上部ヒマラヤ・丘陵帯と低山ヒマラヤ・タライの三標高地域およびブータンにおいて調査し、それぞれの地域特異的なアッサムモンキーを見出し、シッキム・西ベンガル州のアカゲザルとアッサムモンキーと比較した。ニシアッサムモンキー、アルナーチャルマカク、およびホホジロモンキーと併せて、ヒマラヤ山麓のアッサムモンキー近縁分類群の系統地理学に関する資料を収集し、それらの塩基配列を分析した。 マカクで変異性の高い尾長の決定遺伝メカニズムを解明すべく、タイワンザルとニホンザルの間の交雑個体に関してRAD配列決定を行い、尾長変異に相関するSNPを見出し、アカゲザルのゲノム配列データに基づいてGene ontology解析によって尾長決定遺伝子を同定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、1) RAD塩基配列解析に基づき、尾長変異に相関する数十のSNPを見出した。それらの辺傍にある遺伝子をアカゲザルゲノム情報に基づいて検索し、尾の発生過程への関与を検討した。2) 東アジアと南アジア各国での調査、中国雲南省、ミャンマー北部、アッサム州インド、ブータンおよびネパールで調査を行った、とくに雲南省の高黎貢山地域での調査、アッサム州でのアッサムモンキーの変異性調査によってよい資料を得ることができた。スリランカでトクモンキー、カオムラサキラングールとフサグレイラングール(コロブス類)の調査を行った。トクモンキーの3亜種に関して、形態・体色データ、および遺伝子試料が得られた。これら諸国において遺伝子塩基配列解析を行うために、研究対応者とともに遺伝子増幅(PCR)研究手順の研究施設整備を行った。スリランカで国際研究集会を催し、アジアの霊長類進化に関する研究体制の構築につとめた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに検討されている尾長関連遺伝子に関して、その決定効果をマカク各種群の種に関して評価する。とくに注目されるのは、シシオザル種群のミナミブタオザル、キタブタオザル、そしてシシオザルの間での系統関係と尾長特徴で、 広西壮族自治区の西部と雲南省からミャンマー北部、インド東北地方を経てネパールまでのアッサムモンキー、アカゲザル、キタブタオザル、およびコロブス類(Trachypithecus pileatus種群とSemnopithecus種)に関する形態変異性と遺伝子解析資料の収集を行う。それらの示す変異性を検討し、そこで示されるであろう東西移行の進化史を明らかにする。アカゲザルでは東グループ・東南アジアグループと西グループの間の遺伝子流動について明らかにする。キタブタオザルとベニガオザルでは河川系(特にブラマプートラ河、タンルウィン河)や山地との関係で東西の集団間の系統地理学を明らかにする。アッサムモンキーとボウシランール種群では、東アジアの分類群と南アジアの分類群の間で遺伝子流動(遺伝子浸透)が示唆されている(例、アルナチャールマカクについて、東アジアのM. assamensis / M. thibetanaの共通祖先と南アジアのM. radiataの祖先の間の交雑によって起源した)、その浸透の強度と形態学的特徴の変異性の関係を明らかにする。特にアッサムモンキー近縁個体群(ブータン・北インド・ネパール)に関する進化と分類学を明らかにする。このような系統地理学と過去の気候環境変動をあわせて、これら霊長類の東西交流の進化史を明らかにする。
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