研究課題
サゴ属植物の起源地の一つと考えられているパプアニューギニア(PNG)・ブーゲンビル島シワイ地区での調査から、PNGの主要種であるサゴヤシ (M. sagu) とは別節となるCoelococcus節のソロモンサゴ (M. salomonense) が分布し、利用されていることが明らかになった。同地においてソロモンサゴは「奇跡の食べ物」と認識されていること,収穫時期は結実をもって判断していること、幹上部が黄色を帯びていることや葉柄が自然に剥がれる特徴をデンプン含量が高いと判断する指標としているというような情報を得た。なお、同地のサゴは1種類であり、民俗変種 (folk variety) の概念は存在しないものと考えられた。また、これまでに採取した小葉試料を供試し、5S nrDNAスペーサー領域の塩基配列に基づいたサゴ属植物種間の遺伝的距離に関する分子系統学的解析を行ったところ、Coelococcus節植物はサゴ属植物の起源地と考えられるニューギニア島辺りから北方のミクロネシアへ分布した系統と,メラネシアを経てポリネシアへ伝わった系統に分かれて伝播したと考え得る結果を得た。その結果を,Ehara, H. (2018) Genetic Variation and Agronomic Features of Metroxylon Palms in Asia and Pacific. In: Sago Palm: Multiple Contributions to Food Security and Sustainable Livelihoods(Ehara, H., Toyoda, Y. and Johnson, D. V. eds.). Springer, ISBN 978-981-10-5268-2 ISBN 978-981-10-5269-9 (eBook) として公表した。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度のフィジー・ビチレブ島での調査から、Galoa地区近郊では植林活動が進められていること、Pacific Harbour地区では2000年代に進められたフィジーゾウゲヤシ(Metroxylon vitiense)生育地を含む土地開発が停滞、植生の回帰が認められるなどの群落サイズの変化に関する結果を得た。2年目には、サモア・ウポル島の調査で、12年前の調査と比較してM. warburgiiの栽培化が大きく進展したことを確認できた。さらに、M. paulcoxiiをM. warbrugiiと同種としていたことを見直す検討を進めることができた。3年目となる2017年には、サゴ属植物の起源地の一部と考えられているパプアニューギニア(PNG)・ブーゲンビル島の調査から、Coelococcus節のソロモンサゴ (M. salomonense) が分布していることが明らかになった。また、サゴ属植物種間の遺伝的距離について、5S nrDNAスペーサー領域の塩基配列の比較から、分子系統学的解析を進めることができた。その他、サゴ属植物分布地の暮らしと生活、デンプンの物理化学性の種間差を含めて、成果をSpringer社から刊行したオープンアクセスブック“Sago Palm: Multiple Contributions to Food Security and Sustainable Livelihoods”(Ehara, H., Toyoda, Y. and Johnson, D. V. eds., ISBN 978-981-10-5268-2 ISBN 978-981-10-5269-9 (eBook))に掲載した。
2018年の夏季末から初秋に当研究グループの熱帯農学、作物学、文化人類学の専門家からなる調査隊を編成し、ソロモン諸島の調査に赴く。ソロモン諸島には、サゴ属Coelococcus節のMetroxylon salomonense(ソロモンサゴ)とMetroxylon節のM. sagu(ホンサゴ)が分布すると考えられることから、同国の行政機関、高等教育・研究機関との連携により、両種の生態環境調査を実施する。対象地域として、サゴヤシの利用に依存する割合の高いコミュニティーを抽出し、サゴ属植物の栽培管理、収穫、デンプン抽出作業の行程を観察した上で、サゴ資源・サゴ澱粉の流通システムを調査し、同地域のサゴ資源の利用状況を把握することにより、サゴ文化、サゴと地域社会の関わりを明らかにする。さらにサゴ資源の消費材としてのバリューを評価する。また、可能な限り複数の生育地において伐採を含む農業形質調査を行い、サゴ資源の遺伝的変異、サゴヤシバイオマス生産量、経済収量の変異を明らかにするとともに、ソロモン諸島におけるサゴデンプン収量の変異を規定する要因について解析を行なう。採取した植物サンプルは、現地において小葉、葉軸・葉柄、幹部の植物体サイズを表す形態、量的形質を測定・計測した後、細断して風乾調製する。幹部は10cm程度の厚さのディス状に切り出し、樹皮を剥離した後に、髄の一部を中心部から周辺部にかけて体積割合を保って三角錐状となるように切り出し、分析試料とする。小葉葉身は現地で細断した後にチャック付ポリ袋内でシリカゲル乾燥して試料調製する。それを日本に持ち帰り、分析に供する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (5件)
Agriculture
巻: 8 ページ: 1-10
doi:10.3390/agriculture8010004
SAGO PALM
巻: 26 ページ: in press
巻: 25 ページ: 14-20
International Journal of Engineering & Technology
巻: 17 ページ: 1-6