研究課題
本年度はタイ東北部における農業被害関数の推計とともに、現地での世帯生計調査を行うことで農家の世帯生計に対する農業被害の影響を定量的に評価した。その中で、天候インデックス保険の可能性について検討した。タイ東北部における雨季作米および乾季作米の生産変動を分析した結果、雨季作米については雨季前半の降雨量によって生産量が左右され、その変動は主に作付面積や単収の変動によるものであった。また、ムーン川支流地域においては生産量と降雨量に洪水の影響と考えられる負の相関がみられた。乾季作米については大規模なダムが存在する県で、直前の雨季の降雨量によって生産量が左右され、その変動は主に作付面積の変動によるものであった。雨季作米が対象となる実際の天候インデックス保険ではインデックスとして雨季前半の降雨量が使用されることから、現行の天候インデックス保険の設計には妥当性があった。雨季作米の生産変動による被害額推計と農家世帯生計調査の結果から、農家世帯収入に占める被害額の割合は近年減少傾向であった。また、農家の生活が以前よりも豊かになっていることや、現地農家が独自のリスク分散手法を有していたことからも農家世帯生計に対する農業被害の影響は小さいと考えられ、このことが天候インデックス保険の普及を妨げる要因の一つとして考えられる。一方で、専業農家の世帯収入に占める被害額の割合は兼業農家に比べて高く、全世帯収入を農業収入に依存する専業農家や被害額自体が大きくなる大規模経営農家にとっては、適切な保険設計により天候インデックス保険が有効となる可能性があると考えられた。その方策の一つとして、小額でも高頻度で保険金が受け取れるようインデックスと支払額を見直すことが重要であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、本年度は東北タイの17県を対象としたコメの農業被害関数を推計し、降水量と気温が農業生産に及ぼす影響を評価した。また、過去の農業被害額を推計し、農家世帯収入に占める被害割合を明らかにした。これらの結果から天候インデックス保険の普及阻害要因の可能性が示され、よって本研究はおおむね順調に進展しているものと評価できる。
これまで東北タイ41箇所の気象観測データを入手し解析を行っているが、気温データについてはコンケン観測所1箇所のみとなっており、モデルの精度向上のためには気温データのさらなる入手が必要である。また、気候変動を考慮した将来予測にむけた将来シナリオを設定し、構築したモデルにより農業被害発生の規模と頻度について解析を進める。
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