研究課題/領域番号 |
15H05259
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研究機関 | 東亜大学 |
研究代表者 |
佐藤 陽子 東亜大学, 医療学部, 教授 (50398963)
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研究分担者 |
音井 威重 徳島大学, 生物資源環境学部(仮)設置準備室, 教授 (30311814)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 精子成熟 / 熱ストレス / 精巣上体 |
研究実績の概要 |
ゾウは性成熟以降も精巣が腹腔内に停留する極めて珍しい動物である。腹腔内の高温下でも受精可能な精子が生産・射出されるが、未熟な射出精子の運動性は約30%程度と低いことから自然交配が主な繁殖方法となっている。本研究は、熱ストレスにより低下する発現因子とゾウに必要な精子成熟因子を解明することにより、人工授精の指標となる運動性約60%が達成される精子成熟促進培養法を開発する事を目的としている。今年度はまず、ゾウの精巣上体について検討を行うため、採取したゾウ精巣上体(頭部、体部、尾部)及び精巣を用いて、精子成熟に関与する因子、熱ストレスにより発現変動する熱ストレス因子の発現を免疫組織学法を用いて検討を行った。さらに、ゾウ精子の成熟を促すため、精巣上体から主細胞、基底細胞を単離し、培養する条件を検討した。 ゾウ未成熟個体の精巣上体の頭部、体部、尾部を4%PFA/PBSで一晩固定しパラフィンブロックを作成、免疫組織学染色を行った。まず熱ストレスに関与するHSF1、HSP70, HSP90Aの発現を検討した。HSF1は基底細胞では発現せず主細胞では全ての部位において発現していたが、体部、尾部での発現が多く、HSP70は精巣では発現がみられないが、精巣上体ではほぼ頭部でのみ両細胞において発現していた。HSP90Aは主細胞では発現せず、体部及び尾部の基底細胞の一部で発現していた。また、精子成熟に関わるlactoferrinは頭部の主細胞でのみ発現をしているが、a-mannnosidaseは体部よりも頭部の主細胞で多く発現している事が明らかとなった。ゾウとブタやマウスの精巣上体における各分子の発現個所を比較したところ、熱ストレス関連分子HSF1, HSP70とホルモン産生に関与するbHSDの発現部位が異なる事が明らかとなった。さらに、精巣上体から主細胞、基底細胞を単離し、培養を試みたところ、HDGFの添加が培養条件を改善する事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書に記載した精巣上体の免疫組織学的解析をゾウ、ブタ、マウスの標本を作成して行い、熱ストレス関連蛋白質、精子成熟に関与する蛋白質等の発現が、ゾウでは精巣上体の部域によって異なること、また、ゾウは精巣や精巣上体が熱ストレスに弱いと考えられているブタやマウスなどの哺乳類とはこれらの因子の発現状態や発現部位が異なることを明らかにすることができた。これらは新しい知見であり、初年度としては、大きな成果であると思われる。今後は関連蛋白質について、さらなる調査が必要であり、また、動物の成熟度に応じた検討も必要である。 成熟精子を作成するためには、ゾウ精巣上体細胞の培養系の確立が必要であり、今年度はまだ、単離したゾウ精巣上体細胞由来の細胞増殖を促進することは現時点ではできていないが、HDGFの添加の添加により、これらの細胞を1ヶ月以上培養することが可能になった。このことは、今後の展開につながる培養条件を見出したという意味で非常に意味がある事であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新鮮なゾウ未成熟精巣上体と精巣のサンプルが手に入ったため、このサンプルを用いて精巣上体の頭部、体部、尾部における精子成熟に関与する因子、熱ストレスにより発現変動する熱ストレス因子の発現を免疫組織学法を用いて検討を行った。その結果、他の動物との局在の違いなどが見られる事が明らかとなった。今後は、例数を増やし、成熟した個体の精巣上体との比較も行って行く予定である。さらに、人工的に熱ストレスをあたえた状況を組織培養下で作成し、熱ストレスによるこれらの分子の変動を検討する予定である。また、精子の成熟度についても免疫組織学的検討を行い、運動性と成熟との関連性について検討を行う予定である。また、培養条件を改良しつつ、精巣上体培養株の作成を試みる予定である。
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