研究課題
ゾウは性成熟以降も精巣が腹腔内に停留する極めて珍しい動物である。腹腔内の高温下でも受精可能な精子が生産・射出されるが、未熟な射出精子の運動性は約30%程度と非常に低い。本研究は、熱ストレスにより低下する発現因子とゾウに必要な精子成熟因子を解明することにより、人工授精の指標となる運動性約60%が達成される精子成熟促進培養法を開発する事を目的としている。昨年度までに、精子成熟に寄与する精巣上体の解析を行い、ゾウとブタやマウスの精巣上体の頭部、体部、尾部において、精子成熟に関与する因子、熱ストレスにより発現変動する熱ストレス関連分子とホルモン産生に関与する分子の発現部位が他の動物と異なる事を明らかにした。そこで今年度は、精子自身の成熟度を検討するため、ラフトドメインの局在の検討を行った。精子のラフトドメインの解析のため、熱に感受性の高い、マウス、ネコ、イヌの新鮮精子及び凍結精子の未固定及び4%PFA/PBSで固定した標本を用い、ラフトドメインの主構成物GM1に結合するCholera Toxin B subunit (CTB)の生体染色及び、ラフトドメイン構成物のFlottilinに対する抗体を用いた免疫細胞染色を行った。CTBの染色結果から、生体染色と固定標本を染色したもの、また生細胞を染色後に固定した標本では局在が異なり、固定後のサンプルではラフトドメイン内のGM1の局在を正確に検討できないことが明らかとなった。また、非常に熱に感受性の高いイヌの精子では、CTBの染色は精液に含まれる死精子にのみ見られ生精子には見られないこと、低温及び高温による温度刺激を与えると局在が変化することが明らかとなった。一方、Flottilinは固定した抗体染色で今迄に報告のあるヒト精子と同様の局在を示したことから、固定標本において、Flottilinをマーカーとして使用できる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、精子成熟に関して、精巣上体の解析、精子の解析、精子成熟培養系の3方向から行うこととなっている。精巣上体の解析は、昨年度の精巣上体の解析に続き、今年度も解析を続けてはいるが、解析のためにはより多くのサンプルが必要であり、今年度は新たな良いサンプルが手に入らなかったため、精巣上体の解析を更に進める事は困難であった。2つ目の精子の解析について、今年度はメインに行った。精子成熟の指標に必要なラフトドメインの解析方法について、温度感受性の高い動物の精子を使用して、新鮮精子及び凍結精子の未固定及び4%PFA/PBSで固定した標本を用い2つの指標について基礎的検討を行い、得られた結果より、来年度ゾウの新鮮精子、凍結精子を用いて検討が可能となった。今年度タイの共同研究者により、Dusit動物園でのゾウのトレーニングが終了し射出精子を得ることができるようになり、来年度のゾウ新鮮精子での検討が可能となった。3つ目の精子成熟培養系についても改良を検討している。今年度は、タイの共同研究者を招聘し学会での発表や議論を行った他、タイの共同研究者の研究室より博士課程大学院生が本研究室に留学し、共同研究を行っている。
1. 精巣上体の頭部、体部、尾部における精子成熟に関与する因子、熱ストレスにより発現変動する因子の発現について免疫組織学法を用いた検討の例数を増やし、成熟した個体の精巣上体と未成熟な個体の精巣上体の比較を行う。2. H28年度にタイの共同研究者の協力で、ゾウのトレーニングが終了し、射出精子を得ることができるようになったので、本年度検討を行った精子ラフトドメインの局在について、ゾウの新鮮射出精子、精巣上体精子を用いて検討を行う。3. 人工的に熱ストレスをあたえた状況を組織または精子細胞培養下で作成し、熱ストレスにより発現変動する因子の変動を検討する。4. 培養条件を改良しつつ、精巣上体培養株の作成を試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Cryoletters
巻: 37 ページ: 264-271
ISSN 0143-2044
Reprod Domest Anim
巻: 51 ページ: 1039-1043
doi: 10.1111/rda.12766.