研究課題/領域番号 |
15H05263
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
和田 崇之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (70332450)
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研究分担者 |
柳井 徳磨 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (10242744)
吉田 志緒美 独立行政法人国立病院機構(近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター), 感染症研究部, 流動研究員 (40260806)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人獣共通感染症 / 抗酸菌症 / 獣医病理 / 細菌ゲノム比較 |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の目的であった動物由来抗酸菌症例に対する遺伝子解析として、国立台湾大学(台湾)との連携においてホンコンイモリ(両生類)のマイコラクトン(毒素)陽性Mycobacterium marinum感染例を論文報告したほか、同じく台湾の国立屏東科技大学との連携により魚病例由来の同菌種株の遺伝子データを獲得した。国内でも、過去において本菌の致死症例(両生類)を報告していた水族館での再発例から同一菌種を検出し、現在これらの菌株間の系統関係、対照株との比較解析を実施中である。 本菌は結核菌に近縁であると同時に、「顧みられない感染症」の一つであるブルーリ潰瘍を引き起こすM. ulceransと極めて相同性が高い。M. ulceransは、M. marinumがマイコラクトン産生能を獲得して進化した菌種であり、両者の系統関係は抗酸菌種の病原体化の例として重要である。本年度は、M. ulceransの近縁種であり、養殖魚での被害例が報告されているM. pseudoshottsiiの国内初発例起因株を入手し、完全長ゲノムの解読に成功した。また、国立屏東科技大学との共同研究によってこれらの高感度検出(遺伝子増幅)法を確立し、現在投稿準備中である。本手法を用いて関連菌株を効率良く検出・収集することができれば、多株解析に基づく系統解析につなげることにより、結核、M. marinum感染、ブルーリ潰瘍の遺伝的関係を導く糸口となりうる。 本年度は、上述した水系汚染に関わる抗酸菌種に加え、鳥類での感染例が知られているM. genavenseの完全長ゲノム解読、飼育動物における結核菌群の感染例から分離された起因菌株の遺伝子解析などを実施し、原因菌の遺伝子データを体系的に蓄積することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、動物症例の原因菌株の分離培養および遺伝子解析を通して、様々な菌種を対象として多角的なゲノムデータを取得できた。特に、水系汚染に関わるM. marinumとその近縁菌を対象とした研究では、高感度検出法の確立、感染症例由来株の確保、多株解析、代表菌株のゲノム完全長解読、国際連携すべてにおいて順調に進捗しており、今後こうした成功例を通して共同研究を拡張して国際関係の強化につなげたいと考えている。 抗酸菌属の検出に汎用できるPCRシステムの構築は、H27年度から着手してきたところであるが、対照株から抽出したDNAにおいて良好な結果を示し、症例由来検体、動物・環境試料への応用が期待された。しかし、菌数が少ない動物・環境試料では感度、特異性ともに充分でない可能性が示唆されている。こうした状況から、H28年度の終盤から症例由来検体を用いた検証を開始しており、H29年度内の解析完了を見込んでいる。 日本国内での動物由来抗酸菌症に関する連携は、複数の大学、飼育機関、臨床検査機関への周知が進み、着実に増加している。ヒトの感染例が多いM. avium subsp. hominissuisの動物症例や、伴侶動物での新規菌種感染例など、実際の症例ごとに対応できる研究基盤を構築している。 一方で、当初想定していた広域なアジア・オセアニア地域への展開は、現時点で限局的である。H29年度以降の研究調査地としては、台湾およびマレーシアのカウンターパートと検討を重ねている。また、結核菌群の海外調査として、過去にウシ結核菌の流行を経験したニュージーランドにおける菌株ゲノム比較に関する情報交換を現地の研究者らと進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究期間を通して、国内における動物抗酸菌症例の診断と集積、菌株培養、遺伝子解析のワークフローを構築できたことから、引き続き関連機関との連携を利用して症例・菌株・遺伝子データの集積を図る。現時点で既に菌株を確保しているM. kansasii、M. pseudoshottsii、M. marinum、M. genavense、M. avium subsp. hominissuis、および菌種未定の症例起因菌については、次世代シーケンサーによる遺伝子データの取得と多株比較から、株間系統関係の分析と伝播・拡散経路の推定を行う。また、完全長ゲノム配列が報告されていないM. pseudoshottsii、M. genavenseについては既に解読を終えており、遺伝子予測の後、可及的速やかに公開に結びつける。 海外共同研究は、現在既に連携体制を確立している台湾、マレーシアにおける調査を中心に実施するとともに、アジア動物保全学会 (Asian Society of Conservation Medicine, ASCM) での周知と分析依頼を柔軟に受け入れ、持続可能な体制の確立を目指す。 ニュージーランドとの連携では、異なる地域・宿主から分離されたウシ結核菌のゲノム比較から、同菌の特徴である幅広い宿主域と、逆に宿主域が狭いヒト結核菌との差分を明らかにする。本菌は公衆衛生、動物保全、家畜衛生上極めて重要にもかかわらず、完全長ゲノムは1株しか報告がなく、比較研究上不十分な状況となっている。そこで、まず日本国内で分離された臨床株の完全長解読を進めるとともに、ニュージーランド(有袋類)からの分離株調査についても連携を強化していく。
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