研究課題
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)は世界規模で流行する病原性細菌であり、その薬剤耐性から効果的な治療法と予防法の確立が急務である。これまでに代表者は、MRSAが有するpsm-mec遺伝子が黄色ブドウ球菌の病原性を制御する機能を有することを明らかとしてきた。日本の病院において分離されるMRSAの約3割においては、psm-mecが変異した結果、毒素の産生量が増大している。すなわち、psm-mecは、MRSAの病原性を予測するためのマーカー遺伝子として利用出来ることが期待される。世界で流行しているMRSAは地域によって遺伝的背景が異なることが知られているため、psm-mecのマーカー遺伝子としての有効性を知るためには世界規模での調査が必要となる。本研究の目的は、海外諸国で分離されるMRSAにおけるpsm-mecの変異の種類と病原性との対応関係を明らかとすることである。本年度は、タイ王国のMRSAについて78株の収集を完了し、その毒素産生量(PSM産生量)とpsm-mec遺伝子変異の同定に着手している。psm-mecによる黄色ブドウ球菌の遺伝子発現制御機構を解明するため、psm-mecを導入したメチシリン感受性黄色ブドウ球菌、ならびに、psm-mecを欠損させたMRSAについて、遺伝子発現量の変化を測定した。その結果、psm-mecの発現は毒素をコードする遺伝子や発酵経路にかかわる遺伝子群の発現量を減少させることが見出された。この結果は、psm-mecの発現は、病原性因子群以外に、代謝経路にかかわる遺伝子群の発現量を減少させることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
インド、及び、タイ王国のMRSA研究者に連絡をとり、共同研究としてMRSA収集を行うことにした。タイ王国におけるMRSA収集は順調に進み、78株を収集することに成功した。一方、インド由来のMRSAについては、インド国関連法案の認可について、調整中である。MRSAが分泌する毒素量(PSM量)を測定する機器(HPLC)を購入したため、PSMの測定方法について条件検討を行い、測定方法を確立できている。
タイ王国由来のMRSA株については、今後、PSM産生量の測定とpsm-mec遺伝子の変異の有無の決定を行う予定である。さらに、MRSA株に見いだされた変異型のpsm-mecを黄色ブドウ球菌の実験室株であるNewman株に導入し、そのときの病原性関連の表現型の変化を調べる。この解析により、psm-mecの変異多型がMRSAの表現型変化の原因となっているかを明らかにすることができる。
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