アジアの途上国におけるインフルエンザの疾病負荷は先進国と比べて同等であるが、その流行像(特に季節性)は大きく違っている。近年の家庭内伝播に関する疫学研究では、二次感染率や発症間隔(Serial Interval)には大きな違いが見られていない。すなわち流行像の違いは家庭内感染の疫学像の違いで説明されるよりも、もう1つの主な流行の場である学校での流行伝播の違いが強く関与しているのではという仮説に至った。インフルエンザの流行拡大は均質に起こるわけではなく、学校や家庭といった環境と地域の間で伝播を繰り返しながら拡大していくと考えられているが、この課題に迫った研究は非常に少ない。本研究では家庭と学校という2つの場における流行動態がインフルエンザの流行像に与える影響を検討していく。 研究1年目である平成27年度では、研究フィールドの構築に関する予備研究を行ったフィリピン、データ収集が可能であったモンゴルで活動を行った。フィリピンについては蓄積されたデータを利用した医療機関への受診行動データを用いて疾病負荷の再評価を行うとともにフィールド研究を実施する場所に関する検討を行ない研究2年目につなげる準備を行った。モンゴルに関しては、ウランバートル市のバガヌール区におけるフィールド調査を開始することができた。2015-16シーズンにおけるインフルエンザの流行状況について1つの診療圏に属する世帯からデータ収集を行うことができた。現在はデータのクリーニング中であり、終了後にその解析を行う予定である。
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