研究課題
現在、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスは、エジプトを含むアジア・中近東地域の一部で鳥類における感染流行域を獲得している。繰り返される感染伝播によって変異が誘導され、H5N1ウイルス由来新型パンデミックが発生する可能性が指摘されている。特にエジプトは、2009年以降、全世界の67%のヒト感染事例が報告されている特異な地域である。ヒト感染例の国別の累計においても、2015年にアジア諸国を抜いて全世界で最多となった。そのため、エジプトの家禽で蔓延するH5N1ウイルスの進化動態を詳細に把握すると共にウイルスのヒト適応性獲得の推移やパンデミック化潜在性を先行的に評価することが緊要である。本年度は、エジプトにおける共同研究者であるダマンフール大学獣医学部のMadiha S. Ibrahim教授およびEmad M Elgendy講師と連携して、現地での鳥インフルエンザウイルスの疫学調査を実施した。また発育鶏卵にて増殖させたウイルス野外株を対象に、レセプター糖鎖結合特異性鑑別キットを用いてシアロ糖鎖結合特異性をスクリーニング解析した。その結果、多くのウイルス野外株において、両シアロ糖鎖結合親和性を示す結果が得られた。当該データを確認するために、農林水産省の許可を受けて日本に移送済みの臨床ウイルス株を用いてreceptor binding assayを実施したところ、現在エジプトで同時流行するH5N1 clade 2.2.1.2とH9N2 G1-B lineageが、共にヒト型シアロ糖鎖結合親和性を高めていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
エジプトデルタ地域における鳥インフルエンザウイルスの疫学調査が計画通りに実施された。また、レセプター糖鎖結合特異性鑑別キットを用いて、ウイルスのシアロ糖鎖結合特異性をスクリーニング解析することができた。また分離ウイルスの性状解析も進展している状況にある。
次年度(H30年度)は、前半期に終了予定であるエジプトデルタ地帯における鳥インフルエンザウイルスの疫学調査結果に基づいて、後半期にH5N1およびH9N2ウイルスを対象に広範囲なサーベイランスを実施する。また、本事業において分離したエジプトで近年流行する鳥インフルエンザウイルスの性状解析を実施する。また、次年度(H30年度)においても、10月頃にエジプト側共同研究者を日本に招へいすることで、現地でのウイルス蔓延状況ついて情報を共有する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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