研究実績の概要 |
背景と目的:本研究は、カンボジアの第1次医療施設における出産で「科学的根拠に基づく助産ケア」の導入が、不必要な医療介入の実施が減少し、新生児死亡と産婦の合併症の発生の低下につながることを検証することを目的として実施した。 方法:首都プノンペン市で主に低リスクの出産を取り扱う9カ所の保健センターで、ベースライン調査として分娩の直接観察を304例実施した。その結果、基本的に行うべき胎児心音聴取、陣痛強度と間歇の把握が十分に行われていないことが明らかとなった。特に胎児心音聴取は実施回数0回が68%、1回が16%と、大半(84%)の分娩で適切に実施されていなかった。これを基に、保健センターで分娩を取り扱う助産師を対象として、胎児心音聴取の解剖学、生理学、実際の聴取方法を含む科学的根拠に基づくケアの研修を実施した。さらに分娩数が月間30件以上ある保健センター6カ所に対象を絞り込み、研修の実施前後で医療介入実施の直接観察と臍帯動脈血液ガス測定による新生児の状況の把握を行い、比較検討をした。 結果: 本報告作成時点で、研修実施前123例、実施後98例の臍帯動脈血液ガス測定を行った。そのpH平均値は7.23(前)、7.22(後)、pH 7.20未満の割合は37.4%(前), 32,7%(後)であり、有意な差は認められなかった。観察した221例についてアシドーシス割合をみると、7.20未満 35.3%, 7.15未満 19.0%, 7.10未満 5.4%であり、低リスク妊娠群としては高い割合であった。なお観察期間中に新生児死亡、子宮内胎児死亡は認めなかった。 課題: 当初の研究計画では、介入実施群と対照群とを設定し比較するデザインとしていたが、保健センターでの出産数が減少傾向にあるため十分なクラスターおよび分娩数が確保できないと判断し、前後比較研究に方法を変更した。
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