研究課題/領域番号 |
15H05308
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
蜂須賀 恵也 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 講師 (00748650)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レンダリング |
研究実績の概要 |
平成27年度は、大きく分けて二つの方針により研究を進めた。 1つめは、新たな多体型マルコフ連鎖モンテカルロ法の手法を開発し、その有用性を数値実験で確認する事である。従来のマルコフ連鎖モンテカルロ法では、計算する領域のある部分では本来生成されて欲しいサンプルが偶然まったく生成されないという事が起こりうる。これは層化サンプリングなどで解決されている問題ではあるが、マルコフ連鎖モンテカルロ法との組み合わせは理論的に達成されていなかった。 そこで、多体型マルコフ連鎖モンテカルロ法と層化サンプリングの組み合わせについて注目し、マルコフ連鎖法でありながら、層化サンプリングを達成する新たな手法を開発した。メインとなるアイデアは、計算領域を重なりがある小領域に分割し、それぞれの領域でマルコフ連鎖モンテカルロ法を実行することで、領域全体として層化サンプリングを達成するものである。重なりの部分では理論的に同じサンプル分布が得られることに注目し、全体としての計算を正しく行なえる理論を構築した。この理論を元に、数値実験では従来の手法を大幅に改善する計算効率が得られたが、光伝搬シミュレーションへの適用での有用性は得られなかった。 2つめは、既存の多体型マルコフ連鎖モンテカルロ法の光伝搬シミュレーションへの応用を調査し、その成果を国際学会に投稿することである。レプリカ交換法について特に研究を推進していたが、その中で特定のモンテカルロ法と多体型マルコフ連鎖モンテカルロ法の組み合わせが、光伝搬シミュレーションへ有効である事が確認できた。密度推定法および経路積分法を統合する計算モデルについて、世界で始めてマルコフ連鎖モンテカルロ法を適用し、それが多体型モンテカルロ法と同様に、多数のマルコフ連鎖を並列して計算する手法となることが発見できた。この内容はACM SIGGRAPH Asia 2016に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、新たな多体型モンテカルロ法の研究成果論文と、既存の多体型モンテカルロ法の数値実験を含むサーベイ論文とを、国際学会へ提出することを予定していた。 新たな多体型モンテカルロ法については、実績の概要で述べたとおり、大まかな理論の有用性は示せたものの、数値実験において実用的な問題における有用性を確認することができなかった。そのため、国際学会への投稿は平成28年度以降の知見を積み重ね、また改めてアルゴリズムの改善を行なう事とし、平成27年度内での投稿は見送った。 また、既存の多体型モンテカルロ法の数値実験を含むサーベイ論文については、検証に参加を予定していた研究協力者の年度内の確保が難しい事がわかり見送った。しかしながら、その過程で、光伝搬シミュレーションに有効と思われるアルゴリズムを改めて発見することが出来たため、その研究成果をまとめ、コンピュータグラフィクス分野のトップカンファレンスの一つである平成28年度のACM SIGGRAPH Asiaに投稿することした。 論文の投稿自体は遅れているが、知見の積み重ねは順調であり、研究自体の進捗は概ね順調である。また、平成28年度からの雇用で、新たに研究協力者を確保する事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、前述した多体型モンテカルロ法光伝搬シミュレーションによる研究成果をSIGGRAPH Asia 2016に投稿予定である。また、平成28年度からの雇用となる研究協力者とは、新たな多体型モンテカルロ法の研究を引き続き協力して推進する。ただし、前述のように、現状のアルゴリズムのままでは実用的な有用性を示す事が難しいため、関連する他の問題についてまずは知見を積み重ね、改めて理論を見直し実用的なアルゴリズムの開発を長期的に目指す。特に、平成27年度の研究の中で、多体型モンテカルロ法は、現在光伝搬シミュレーションで盛んに研究されている勾配空間におけるシミュレーションと関連していることが分かったため、まずは勾配空間におけるシミュレーションにおいて、新たな知見を積み重ねる事を目標とする。
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