平成30年度は、これまでの知見をもとに、当初から目的としていた並列計算が可能な多体型マルコフ連鎖モンテカルロ法についての研究を推進した。特に、平成27年度に理論的優位性を示すに留まった、層化サンプリングとマルコフ連鎖モンテカルロ法の組み合わせについて見直しを行い、数値実験での優位性も示すことができた。研究成果は論文としてまとまっており、学会に投稿予定である。
平成27年度の報告にもあるように、従来のマルコフ連鎖モンテカルロ法では、有限のサンプル数では計算する領域全体をカバーすることが保証されていないため、ある領域が全くサンプリングされない(計算されない)という事が起こりうる。これは、光伝搬シミュレーションへの応用においては、画像全体が均一に計算されないという事を意味し、画像全体での誤差の分布が不均一になるという問題があった。
この問題は、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いる限り、本質的に解決できない問題であろうとされていたが、本研究ではその問題を初めて解決する手法を開発することができた。具体的には、層化サンプリングと同様に計算領域を小さな領域の集合に分け、それぞれでマルコフ連鎖モンテカルロ法を行う。次に、計算結果の整合性を保証するために領域の重なりを考え、重なる領域では計算結果が同じになるという性質を利用して、多数のマルコフ連鎖による計算結果を整列させる。この整列の処理は、これまでこの研究プロジェクトで得られた勾配空間でのレンダリングの知見(今年度、それをまとめた論文として出版)によって、対数勾配空間でのレンダリングと定式化できることを発見した。それにより、マルコフ連鎖同士の連結は、対数勾配空間でのポアソン方程式によって行える事がわかった。光伝搬シミュレーションへの適用でも従来のマルコフ連鎖モンテカルロ法に比べて、優位性を示すことができた。
|