研究課題
飼育ボノボ・チンパンジーでの観察・実験研究、および野生ボノボを対象とした観察研究をおこなった。協力行動として、食物分配協力および危険状況下での集団協力に注目してデータ収集・分析をおこなった。食物分配にかんしては、野生ボノボでのこれまでのデータをまとめ、国際学術雑誌および国内外の学会等で発表した。独力で入手できる豊富な果実をボノボはあえて分け合っていることから、チンパンジーの肉分配を基に考えられた従来の栄養面からの説明は成り立たない。絆を深めるという社会的要因がボノボの食物分配には強いことを明らかにし、「儀礼的食物分配」と名づけた。さらに、分配に影響する社会的・生態的要因を明らかにするため、集団の構成や食物の質・量を統制した飼育下での実験もおこなった。「儀礼的食物分配」仮説から導かれる予測通り、社会関係を再構築する必要がある状況下で分配が増加するというデータが得られている。分析を進めることで、協力行動が進化した社会的および環境要因の解明につながると期待できる。危険な状況下での集団協力にかんしては、野生チンパンジーと野生ボノボの道渡りのパターンを比較分析した。より洗練された集団協力行動がチンパンジーでみられている。他集団と敵対的な関係をもつチンパンジーでは、危険な状況下で集団としてまとまる能力に長けている可能性がある。それに対して、他集団とも平和的な関係を築くボノボには、集団として協力する必要性がチンパンジーに比べて低いのかもしれない。2個体間関係から社会全体に視点を移すと、協力や規範の進化についてもこれまでの定説とは違った新たな知見が得られるだろう。これらの成果を、査読付き英文学術雑誌に3編、査読付き和文学術雑誌に1編、英文学術図書としても共同編集で1編・共同分担執筆として1編、和文一般雑誌に3編等にまとめて出版した。
2: おおむね順調に進展している
ボノボの研究にかんしては、当初の計画以上に進展していると言える。ボノボ関係だけで、査読付き英文学術雑誌に2編、英文学術書の共同分担執筆として1編の論文を発表した。また、ボノボの認知・行動に最新の研究成果をまとめた英文学術書(米国Duke大学のBrian Hare博士との共同編集)をBrill社から出版することができたのも平成27年度の大きな成果のひとつである。計画に比べ若干遅れている点としては、野生チンパンジーの調査が挙げられる。平成26年3月にギニア共和国で発生したエボラ出血熱の流行が想定外に長引き(前例のない過去最悪・最長の流行)、H27年度の現地調査が困難となった。これまでに収集したデータの分析を進めることによって、研究に大きな遅れはない。また、幸い平成27年12月28日に終息宣言が出され、H28年度には現地調査をおこなえる見込みとなった。4年プロジェクトの全体からみると、研究は順調に進展していると言える。
研究計画を変更しなければならないような問題点はとくになく、これまでの研究方針を継続させる。野生チンパンジーの主な生息地である西アフリカではエボラが猛威を振るっていたが、調査地のあるギニア共和国では、2015年12月にエボラ終息宣言が出された。2015年度には実施できなかった野生チンパンジーの調査も速やかに再開できると期待できる。また、野生ボノボにかんしては、これまで2つしか調査地がなく、調査地・環境での比較がほとんどおこなわれてこなかった。しかもこの2つともが熱帯雨林の奥深くに位置している。2015年度には新たな研究拠点を開拓すべくサバンナ混交林に住むボノボの調査をおこない、今後の本格調査に向けた基盤を整えた。世界で初めてのボノボ集団間比較が近く可能になるだろう。このことにより、協力と規範が進化する社会・環境要因の解明に向けて大きく前進することが期待できる。論文発表については、まず、現在投稿中の論文3編の公表に向けて最大限の努力をする。現在収集中のデータについても速やかに公表できるよう、分析・論文執筆を進める。また、H27年度発表の英文書籍とは別にもう1冊のボノボに関する本を現在編集しており(米国Duke大学のBrian Hare博士との共同編集)、Oxford University Press社からH28年度中の出版を目指している。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (2件) 備考 (2件)
Letters on Evolutionary Behavioral Science
巻: in press ページ: in press
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