本研究では、他者の動きに埋め込まれた社会的情報の処理機構とその発達メカニズムについて様々な指標を用いることに明らかにすることを目指した。本研究では、他者身体の動作の知覚の発達変化を眼球運動、高密度脳波計測を組み合わせることにより明らかにした。更に、研究代表者らの知見ならびに先行研究に基づき、他者の動き知覚発達に基づく理論モデルを構築し、理論の整備を試みた。研究計画に記載した実験に関する項目では、以下の実験を実施した。眼球運動計測により、4ヶ月児は垂直方向の腕振に比べ水平方向の腕振りを選好し、9ヶ月乳児は水平方向の腕振りを利用して物体を学習することを見出し、論文として発表した。これに続く実験では 、身体動作の方向、生物学的な妥当性により動きへの選好が4ヶ月児で異なること、9ヶ月児では物体学習に異なる影響を与えることを見出しており、現在論文執筆中である。さらに、身体の動きに基づく物体学習の神経機序を明らかにするため、6ヶ月児を対象とした高密度脳波計測実験を進めている。また、他者の動き知覚に関連した神経活動を解明するため、新たに開発した刺激提示手法により、6ヶ月児を対象とした高密度脳波実験を実施している。これによりこれまで十分に明らかにされていない、他者の動き知覚に関する神経機序を単一の脳波成分を指標として明らかにする。一方、研究計画に記載した理論研究として、これら一連の実験により明らかにした発達変化ならびに先行研究による知見を説明するための身体動作知覚に関する発達モデルを構築した。理論モデルは、先行研究において構築された顔・視線に関する発達モデルを参考に、2つのシステムからなる他者の動き知覚発達モデルを構築した。一つのシステムは生物学的な動き処理に関するシステム、もう一つは動きの詳細な特性を処理する学習依存的なシステムである。現在、論文としてまとめ投稿し、査読中である。
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