本研究は,高精細音響収録・再生システムを実現するため,超解像型音場収音・再現技術を確立することを目的とする。音場収音・再現技術とは,音空間を物理的に忠実に再構成するための技術であるが,既存の技術では、マイクロフォン・スピーカ素子の数や配置間隔によって,再現可能な周波数や空間解像度が制限されていた。そこで本研究では,収音場や再現音場の性質を陽に取り入れた信号モデルと,機械学習理論による最適化に基づく新たな信号処理のアプローチにより,聴感上の品質を保つために必要なアレイ素子数がより少ない高精細音響収録・再生システムの実現を目指す。 本年度は以下の3項目について研究を遂行した。(1)残響環境下でのスパース音場分解について,低ランク信号と平面波領域スパース信号の和による新たなモデル化について,より詳細なシミュレーション実験を行い,その性能が従来法を上回ることを実験的に示した。(2)音源を含む領域の音場を再構成するため,領域を格子点に離散化することなく音場分解を行う方法論を構築し,数値シミュレーションによる検証を行った。Reciprocity Gap Functionalと呼ばれる逆問題における方法論を導入し,閉形式で点音源の位置と振幅を推定可能な枠組みを構築するとともに,Annihilation filterを用いたロバスト化についても検討を行った。(3)マイクロフォン配置の最適化手法に関して,事前に候補点での音響伝達特性が未知の場合に適用可能な方法について検討を行った。相互情報量を規準とする効率的なアルゴリズムにより得られたマイクロフォン配置を用いることで,従来法を上回る精度で音場の再構成が可能であることを実験的に示した。
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