身体動作を外部から誘発させるためには,そもそも人がどのような動きをしようとしているのかを予め知っておき,それに適した形で刺激を提示する必要がある.本年度はここにフォーカスを絞り,身体動作に表出する特徴を機械学習させることにより,少し先の未来の動作を推定するという研究を主に行った. 本年度着目したのは,ジャンプや歩行といった全身運動を伴う動作である.その所作の中に近い将来を予測するための情報が含まれているという仮定のもので,機械学習により0.5秒後の身体位置を推定するシステムを実現した.本研究の結果,身体重心の移動について,歩行では数cm程度の誤差で0.5秒後の位置が予測できることを確認した.本研究は,IDW '17 I-DEMO Awardと日本VR学会学術奨励賞を受賞し,高い評価を得た. このような動作予測と動作誘導指示との組み合わせの一つの実証ケースとして,倒立振子を手動で安定化させるという課題に取り組んだ.これは1次元のレール上を移動する台車に倒立振子を接続し,台車を手で動かすことで振子を安定化させるという課題である.倒立振子の制御理論は既に確立されており,安定化のための最適な位置を計算できるため,それを人の動作誘導と組み合わせた場合の効果が見やすい事例として採用した.掌上に棒を立てる場合とは異なり,台車と振子との間は滑らかなジョイントで接続されており,触覚的なフィードバックが乏しいため,実際に振子を安定化させるのは,振子の挙動を見ながら行うのは難しい課題である. 本研究では,振子自体を見えないようにした状態で,計算によって求められた移動すべき位置の情報を,視覚的なプロジェクション,あるいは触覚的な刺激により指示し,どの程度安定化できるかを確認した.触覚での安定化は十分達成できなかったが,視覚の場合には訓練に応じて最大1分以上安定化させられることを確認した.
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