H29年度は、これまでに開発したコンポーネントを統合して、等身大の人体ファントムの開発を行った。具体的には、生体筋を模倣した軟体アクチュエータを用いて、ヒトの筋骨格系の解剖学的構造を模擬した全身(上肢・下肢・体幹)を構成した。本研究では、人間の筋骨格身体を再現し得るスポーツ人体ファントムを、人工筋肉アクチュエータを用いた生物規範ロボットによって実現することを目指している。これまでは、生体筋のような柔軟で複雑な形状のアクチュエータの実現は難しい課題だった。有機的形態を備えたこれまでにない軟体構造ロボットの試作開発は、スポーツ・健康分野への貢献につながる。これまで、脚のみの小型試作機による垂直跳びや、腕のみの試作機による素早い腕の振りを実現してきた。全身の統合に向けて、体幹について新規に開発を行った。ヒトの体幹には、股関節を駆動する筋を多数収納する骨盤や、屈曲動作が可能な脊柱が含まれる。コンパクトな骨盤に、股関節の大きな動きを可能にするだけの人工筋肉を配置する必要がある。一方で、脊柱は短い骨をまたがる形で比較的長い人工筋肉を配置できる。そこで、ストロークの異なる2種類の人工筋肉を開発した。大ストロークの人工筋肉によって股関節を駆動する筋肉を、骨盤長におさめることができた。人体ファントムの全身スポーツ運動タスクとしては水泳を選択した。船舶用の試験水槽を用いて、競泳で使われるドルフィンキック動作を水中で実行し、各部の姿勢と推力を計測した。基礎実験より、各関節はヒトに近い関節可動範囲を実現できることが示された。水中実験では、ヒトの水泳中の筋指令に基づく運動指令を用いて、推力を発揮することができたが、関節運動のプロファイルは人間とは異なっていた。流体力と、筋骨格系に特有のコンプライアンスに起因する偏差と考えられる。
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