太平洋とインド洋を結ぶインドネシア通過流(ITF)は、海洋大循環において唯一熱帯表層を通過する海流である。そのため、地球表層における熱および水循環の要であり、気候変動とも密接に関わっている。しかしながら、インドネシア多島海の地形の複雑性などにより詳細な研究は進んでいない。本研究では、ITFの影響下で成長した複数のサンゴ骨格を試料とすることで、ITF表層域の海洋環境とその気候システムとの関係を空間的かつ時系列的にも明らかにすることを目的とする。特にこれまでに塩分の詳細な長期記録は報告されていないため、本研究では、ジャワ海やバリ島近海から採取された現生の造礁サンゴを地質学的試料として利用し、その骨格中の化学成分を測定することで、50-100年間の海水温と塩分の記録を復元する。これまでにまずはジャワ海より採取されたハマサンゴ試料について酸素同位体比およびストロンチウム・カルシウム比の測定を約50年間分行っており、モンスーンやダイポールと連動するような変動が見られている。また予察的に周期解析を行ったところ2年周期が卓越していることも分ったが、今後さらに記録を延伸して再度周期解析を行う予定である。 また、本研究遂行にあたっては、インドネシアとの共同研究が欠かせないが、本年度は正式な手続きを経てインドネシアのサンゴ試料を使用する許可を得ることができた。これにより、新しく採取されているジャワ海以外のサンゴ試料についても今後分析を進める予定である。
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