インドネシア多島海は太平洋とインド洋の間に位置し、この海域にはインドネシア通過流が流れている。そのためこの海域はアジアモンスーンだけでなく、エルニーニョ/南方振動(ENSO)やインド洋ダイポール(IOD)の影響も受けていると考えられるが、インドネシア多島海においては地形の複雑さなどもあり、これらの気候現象とこの海域の環境変動の関係については不明な点が多い。そこで、今年度はジャカルタより採取されたサンゴ骨格中の酸素同位体比とストロンチウム・カルシウム比を分析し、約70年間の海水温と塩分の復元を行い、エルニーニョ/南方振動(ENSO)やインド洋ダイポール(IOD)との関係について調べた。この海域の表層海水温には温度幅は小さいものの年に2回の季節変動があるが、サンゴから復元した海水温にも同様の特徴が認められた。また、過去70年間で約0.7℃の海水温上昇も見られた。塩分についても雨季・乾季を反映した季節変動が見られ、サンゴ骨格からモンスーンによるこの海域の特徴的な環境情報を復元することができていることが分かった。さらに、海水温は1950年代後半に比較的大きな温度上昇があり、その後1960年代にかけて温暖な時期が見られること、また塩分については1950年代後半から1980年代前半で比較的塩分が高かったことなどが示された。一方、時系列解析などから、この海域はENSOやIODの影響を強く受けているわけではないことが示唆された。 さらに、炭素同位体比(δ13C)の測定結果からは、過去70年間を通してδ13Cが低下しているスース効果が認められ、全球的な化石燃料使用の影響がローカルな海域であるジャカルタ湾にも及んでいることが示された。
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