今年度はこれまで高時間分解能でSr/Ca比および酸素同位体比の分析を進めてきたジャワ海に位置するセリブ諸島のサンゴ骨格試料について、pHの指標とされているU/Ca比を同じ時間分解能で分析を行った。U/Ca比はpHと共に海水温の影響も受けて変動するため、Sr/Ca比とU/Ca比の両者を用いて、その変動差を検出することで、海水温以外、つまりpHの影響を評価した。その結果、1970年代頃まではU/Ca比がSr/Ca比とほぼ同様な変動を示していたが、1970年代以降、pHが低くなる傾向を示した。その後1990年代以降は再びSr/Ca比と同程度の変動となった。ここで、海水の溶存無機炭素の変化の指標にもなる炭素同位体比の結果を見てみると、1970年代以降に化石燃料の大気への放出および海洋表層への溶解を反映した炭素同位体比の低下(Suess効果)が見られている。このことから、化石燃料の影響で海水がわずかに酸性化し、pHが低下した影響をサンゴ骨格中のU/Ca比は捉えている可能性が示唆された。その後の1990年代のU/Ca比の低下(pHの上昇)は、サンゴ自身が体内のpHを調節したことによるものと考えられ、数十年という短い時間スケールでも酸性化に対してサンゴが適応しようとしていることが推察される。 また、新たにブナケンとバリ島のサンゴ試料について、UVライト照射による蛍光バンドの観察も行った。その結果、バリ島のサンゴ試料には、複数の洪水の影響と思われる蛍光バンドが認められたが、ブナケンにはほとんど認められなかった。年輪の観察からも両者の成長バンドには違いが見られるので、同じインドネシア多島海においても、異なる海洋環境に生息していたと考えられる。
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