研究課題
本年度は、現場培養装置の回収航海は実施しなかった。そのため、2014年度および2015年度に回収した試料の分析に注力した。現場培養装置には鉄を含む固体基質として玄武岩、パイライトをセットしているが、本年度は反応性が高く変質が進みやすいと予想されるパイライト基質の試料分析を実施した。2015年度後半にパイライト試料の微生物群集解析はすでに進めており、堆積物試料と比べて、バクテリアドメインに特異的な群集が観察されている。本年度は、観察された特異群集を標的とした微生物蛍光染色、および標的微生物-パイライト粒子境界面の放射光源X線顕微鏡(STXM)分析、透過電子顕微鏡(TEM)分析をおこなった。STXM分析の結果、標的細胞-パイライト境界面において酸性多糖類を多く含む細胞外有機物を産生していることがわかった。また、同領域のFe化学種は3価鉄が卓越しており、パイライトに含まれる鉄が酸化されていることを示唆する。一般的に、カルボキシル基などの酸性多糖類の存在下では鉱物溶解は増加するため、微生物は鉱物中に含まれる2価鉄を効率よく溶解させるユニークな機構を有することが推測される。STXMによるFe NEXAFS分析の結果、細胞-パイライト境界面で観察される3価鉄は水酸化鉄鉱物であった。TEM分析を用いて、この水酸化鉄の鉱物粒子径、鉱物種を調べた結果、粒径は5-10 nm程度のナノ粒子であり、鉱物種はシュベルトマナイトであることがわかった。シュベルトマナイトは熱力学的に酸性環境で安定な鉱物種であり、微生物-鉱物境界面には周辺海水と異なる低いpH環境が形成されていることが示唆された。無機的な2価鉄の酸化速度は、pHが低くなるほど小さくなため、パイライト表面(変質反応場)では、微生物による生物的な酸化反応が卓越しやすいことを強く示唆する重要な結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
パイライト基質に関する分析がほぼ終了し、STXMやTEMの試料作成のプロトコル等が確立できたため。残り2年度で玄武岩試料の分析に注力する予定である。
パイライト試料の分析で確立した試料調製法を基礎として、来年度より玄武岩試料の分析を実施する予定である。
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Microbes & Environments
巻: 31 ページ: 63-69
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放射光
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