研究課題
本年度は、回収したバサルトガラス粉末の分析を集中的におこなった。バルクXAFS法をもちいて培養期間12ヶ月の試料の鉄(Fe)の化学種を分析した結果、初期状態とほぼ変わらず、Fe(II)が90-92%であった。次に表面敏感XAFS法を用いてFeの化学種を分析した結果、バルク分析とは異なり20-30%程度のFe(III)が検出された。これらの結果から、バサルトグラス粉末において、粒子の表面部(~60 nm程度=転換電子収量法での分析深度)では鉄の酸化が進んでいることが明らかになった。次に回収した試料から微生物由来DNAを回収し、試料に含まれる微生物群集(バクテリア)を解析した。その結果、classレベルでは α-proteobacteria、γ-proteobacteriaの群集がそれぞれ22-35%、20-31%の範囲で含まれており、周辺海水の微生物群集と比較して有意に優占していることがわかった。またこれら以外のclassは、全体に対して5%未満しか検出されなかったため、これらα-proteobacteria、γ-proteobacteriaがバサルトガラスを基質として利用している可能性が高いと考え、以降のFISH-STXM分析の標的微生物群とした。α-proteobacteria、γ-proteobacteriaを標的としたFISH-STXM分析を実施した結果、一部の微生物細胞では標的細胞-バサルトガラス境界領域で酸性多糖類を多く含む細胞外有機物の存在が観察された。また、同じ領域のFe化学種は3価鉄が卓越しており、バサルトガラスに含まれる鉄が酸化されていることを示している。一般的に、カルボキシル基などの酸性多糖類の存在下ではケイ酸塩鉱物の溶解度が上昇すると予想され、酸性多糖類の細胞外産生によって鉱物中に含まれる鉄を効率的に利用している可能性が示唆される重要知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
現場培養装置の設置及び回収、回収試料の分析ともに予定通りに進んでおり、おおむね順調に進展している。
来年度以降は設置場所の異なる非熱水域の試料分析に着手し、環境条件の違いによる海洋地殻風化機構の相違点や共通点について考察を進める。
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Microbes & Environments
巻: 32 ページ: 283-287