研究課題
研究代表者らは、DNA修復機構の異常により小頭症や発育異常を示す先天性疾患が疑われる症例について、DNA修復活性評価や次世代ゲノム解析を活用して、疾患責任遺伝子変異の同定を実施した。この結果、DNA二重鎖切断 (DSB)修復機構の1つである非相同末端結合 (NHEJ)に関わるXRCC4遺伝子上に新規疾患責任遺伝子変異を同定した。NHEJの異常は、DSB修復機能の欠損による放射線感受性のほか、V(D)J組換え/クラススイッチの異常により、LIG4症候群に見られるような免疫不全を引き起こすと考えられていた。しかし、XRCC4症候群では、患者由来細胞は放射線感受性を示すものの、患者の免疫系異常は確認されていない。この病態の相違を解明するため、NHEJ関連因子のリコンビナント蛋白質を精製しin vitroでのライゲーション活性の評価や、本症例で見つかった変異型XRCC4存在下でのV(D)J組換え頻度と連結部位の配列形状の調査など、生化学的/ 細胞生物学的解析を進めた。また、遺伝子の機能異常と病態との関係解明のための情報蓄積にむけて、本疾患と類似の症例を国内外から収集し、ゲノム/細胞レベルでのスクリーニングを行った。これら新たに収集した症例に関して、疾患責任遺伝子変異の探索を実施したところ、ある症例において機能未知の遺伝子Y上に疾患原因変異候補を同定した。本遺伝子とXRCC4との関係を明らかにするため、本遺伝子の機能解析及びXRCC4との関連調査を行った。
2: おおむね順調に進展している
小頭症を示し、DNA修復機構のうち主に紫外線によるDNA損傷を修復することが知られるヌクレオチド除去修復機構 (NER)の先天的な欠損により発症するコケイン症候群が疑われた症例の疾患責任遺伝子変異を調査したところ、放射線などによるDSBを修復することで知られるNHEJに関与するXRCC4遺伝子上に疾患原因変異を同定した。XRCC4症候群の病態解明のため、in vitro実験系でのライゲーション活性調査や、変異型XRCC4存在下でのV(D)J組換え調査等を行ったが、XRCC4症候群患者で免疫系の異常が見られない原因は明らかになっておらず、現在も解析を進めている。遺伝子変異と病態の関係を明らかにするため、XRCC4症候群と類似の症例を国内外より収集し、DNA修復活性評価と欠損した修復活性の回復を指標としたウイルス相補性試験、及び次世代ゲノム解析を併用することで、疾患責任遺伝子変異の同定を進めた。その結果、ある症例において機能未知の遺伝子Y上に疾患原因変異を同定した。XRCC4遺伝子と本機能未知遺伝子との関係を明らかにするため、機能解析を進めたところ、興味深い結果を得たため、引き続き解析を継続している。また、他の類似症例解析からも、疾患原因と考えられる遺伝子異常がいくつか同定されており、NHEJとの関連を調査する予定であり、本研究は順調に進展していると考えられる。
研究代表者らが保有するXRCC4症候群患者由来細胞は、DSB修復能を完全に欠損しているにも関わらず、本患者に免疫系の異常は見られていない。また、本患者で同定された変異型XRCC4が免疫系反応 (V(D)J組換え反応など)に異常をもたらす確証は得られていない。このNHEJの先天的な欠損と免疫系の異常が見られない病態との関係をより直接的に検討するため、モデル動物での病態解析を取り入れることとした。また、XRCC4と機能未知の遺伝子Yとの関係も明らかにする。DSBが生じた際に関わるDNA修復/DNA損傷応答機構は、様々なメカニズムが入り組んでいることから非常に複雑であり、また多くの因子が関与するため、XRCC4と機能未知の遺伝子Yとが同一の経路上あるいは直接機能的な関連をもっているのかを明らかにする。継続して行っている類似症例の疾患責任遺伝子変異の探索で検出されてきた疾患原因と考えられる変異候補について、その真偽の検証とNHEJ活性あるいはXRCC4機能への影響を調査するとともに、引き続き症例収集と疾患原因変異同定を進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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