研究課題/領域番号 |
15H05334
|
研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
久保田 彰 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (60432811)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | トキシコロジー / ゼブラフィッシュ / 発生毒性 / エストロゲン受容体 / シトクロムP450 / ビスフェノール類 / リン酸エステル系難燃剤 / in silico解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、解析力の高いゼブラフィッシュ胚をモデルとして化学物質の有害性評価と毒性発現機構の解明を目的とする。平成28年度は以下の成果を得た。 1. 初年度の予備検討の結果をもとに、17βエストラジオール(E2)や複数のビスフェノール類(BPs)についてin vivo曝露試験を行い、エストロゲン受容体(ER)標的遺伝子であるシトクロムP450 19A1b(CYP19A1b)の mRNA発現に対する影響を評価した。その結果、E2および評価したBPsのほとんどについて濃度依存的なCYP19A1b mRNAの発現誘導がみられた。BPsの構造的特徴に着目すると、フェニル環のpara位にOH基が置換した物質が高い誘導能を示した。さらに、E2および一部のBPsについて、ER拮抗薬との共処置を行った結果、E2やBPsによるCYP19A1b mRNAの発現誘導は有意に抑制された。これらの結果から、E2と同様にBPsも、少なくとも一部は、ERを介してCYP19A1b mRNAを誘導すると考えられた。 2. 本年度は新たに、リン酸エステル系難燃剤(PFRs)とその代謝物について影響を評価した。PFRsの親化合物を用いたin vivo曝露試験の結果、リン酸トリフェニル(TPHP)などいくつかのPFRsは10 micromolarで全身血流の低下や心臓周囲浮腫を誘発した。さらにTPHPでは体躯の矮小も認められた。TPHPの主要代謝物を用いた曝露試験では、HO-p-TPHPのみ10 micromolarで心血管毒性を示した。興味深いことに、TPHPでみられた体躯の矮小は、HO-p-TPHPでは認められなかった。これまでの結果より、複数のPFRsやその代謝物がゼブラフィッシュ胚に対して心血管毒性を引き起こすことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由は以下のように要約され、得られた結果は2年目の研究成果としては十分で、研究はおおむね順調に進展していると判断した。 1)ゼブラフィッシュ胚において、BPAだけでなく複数の代替BPsがERを介してCYP19A1b mRNAを発現誘導すること、ならびにBPAと同等もしくはそれ以上の高いエストロゲン活性を有する代替BPsが存在することを明らかにした。 2)当初計画にはなかったBPsとゼブラフィッシュERsの相互作用をin silicoでシミュレーションするため、分子シミュレーションソフトウェアを用いて、哺乳類ERsとの相同性モデリングによりゼブラフィッシュERα、ERβaおよびERβbの立体構造予測に成功した。 3)PFRsやその代謝物についても新たに曝露試験を実施し、PFR代謝物が発生毒性を示すことを初めて明らかにした。 4)初年度に実施した研究の成果の一部が国際誌Biochemical Pharmacology(IF=5.09)に学術論文として掲載された。
|
今後の研究の推進方策 |
BPsを対象としたゼブラフィッシュ胚に対する影響評価を継続する。まず、in silicoシミュレーションにより算出されるBPsとERsの相互作用エネルギーと、in vivo曝露試験により得られるバイオマーカー遺伝子の誘導能との相関性を調べ、in silico解析することでin vivoエストロゲン様活性が評価できるか検証する。また、一部のBPsは、E2との共存下で抗エストロゲン作用を示すというin vitro試験の結果も哺乳類では散見されることから、ゼブラフィッシュ胚を用いたin vivo試験により、この点を評価する。 また、一部のBPsや、PFRsとその代謝物は心血管系毒性を示したことから、毒性発現機構について検討する予定である。PFRsとその代謝物については、曝露による遺伝子発現変動をin vivo胚で網羅的に解析する予定である。 さらに、新興環境汚染物質として近年問題となっている昆虫忌避剤DEET(ジエチルトルアミド)や、魚類で顕著な汚染が認められる抗菌剤トリクロサン、魚類の脂肪酸代謝を攪乱するフィブラート系薬剤についても、ゼブラフィッシュ胚を用いたin vivo曝露試験を実施し、毒性がみられた場合にはその分子機構を検討する。
|