メタンハイドレート胚胎堆積物に生息する微生物群集構造を解析するために,次世代シーケンサーMiseqを用いて,リボソームを構成する16S rRNA遺伝子を対象としたアンプリコン解析を実施した.試料は日本海隠岐諸島沖のメタンハイドレート胚胎域で取得・保存していた半遠洋性堆積物を用い,堆積物の表層から深部における微生物の分布と棲み分けの解明に焦点を置いた.また,メタンフラックスが高いことが期待される浅海の堆積物試料でも同様の解析を実施した.間隙水中の硫酸塩が枯渇するまで深度方向に未培養性の細菌の割合が増加し,それ以深は群集構造に顕著な変化は見られなかった.AC1など一部の未培養性系統群はメタン生成ゾーンにのみ分布していた.嫌気的メタン酸化アーキア由来の16S rRNA遺伝子は極めて少数派であったため,嫌気的メタン酸化反応の鍵酵素遺伝子であるmcrAを対象にphylotype分析を実施した.その結果,既知系統に近縁なものは硫酸塩ーメタン境界近傍で検出されたが,相同性が低いものは浅部や深部で検出された.それらのグループは,従来の嫌気的メタン酸化反応とは異なる代謝か,反応速度論的な制約が伴う可能性が考えられたが,嫌気的メタン酸化活性が極めて微弱であったことから,その理由を言及することはできなかった.本研究では一貫して,メタンフラックスの強弱に対応した微生物生態系に着目したことで,ガスハイドレート胚胎域における生物地球化学的物質循環でこれまで見逃されていた部分に迫ることができた.特に,深部堆積物中の微生物によるメタン生成から浅部堆積物や炭酸塩鉱物中のメタン分解に至る一連のメタンソースとシンクを評価し,メタンハイドレート鉱床の生物地球化学的続成過程について統合的な理解に迫ることができた.
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