これまで新しい環境調和型界面活性剤としての利活用を目指して、環境中から微生物由来界面活性物質生産菌(BS)の探索を続けてきた、新しい構造のBSを発見するに至っているが、必ずしも望ましい物性や機能を持たないため、用途が限定されることがBS利用拡大の障害となっている。これまで困難であった分子生物学的な育種がゲノム解析技術の発展により利用可能となりつつある。用途に応じた分子種のデザイン(分子デザイン技術)を可能とするため、ゲノム情報を基盤として、迅速かつ網羅的な遺伝子破壊法を組み合わせることで、BSの分子デザイン技術を高度化すること(次世代グリーンプロダクションの創生)を目的として研究を実施した。 微生物由来界面活性物質マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)生産菌Pseudozyma hubeiensis SY62株の遺伝子破壊系を確立し、アセチルトランスフェラーゼ(mat1)破壊株の構築に成功した。これにより、当該菌株の遺伝子破壊系を確立することができ、代謝工学的な手法により、中間代謝物質の生産が可能となった。得られた中間体について、核磁気共鳴スペクトル、脂肪酸分析、マトリックス支援レーザーイオン化質量分析法などを組み合わせて、元株の代謝産物に見られるアセチル基が付加しない代謝物(MEL-D)を選択的に生産していることを証明した。得られたmat1破壊株は元株が有する効率的なMEL生産能力を保持したまま、MEL-Dを量産することができた。これまで報告のあるMEL-D生産方法の中で最も効率的な生産方法を確立できた。1本鎖MELの選択的生産株の構築を目指してアシルトランスフェラーゼ破壊株の作成も試みたが、破壊株はMELを生産しなかった。
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