研究課題
国内の下水処理システムより下水試料を採取し、E. coli低減効果を評価した。その結果、標準活性汚泥法では流入下水に対し最終処理水(塩素消毒前)で約2.5 log(流入1.08x105 CFU/mL vs. 処理水3.43x102 CFU/mL)、A2O法で約2.8 log(6.93x104 CFU/mL vs. 1.07x102 CFU/mL)の低減が確認された。一方、途上国向け下水処理システムとして提案されているUASB+DHSにおいては、約3.0 log(9.83x104 CFU/mL vs. 1.08x102 CFU/mL)となり、優れた低減効果が確認された。現在提案されている水系感染リスク評価は計算因子として散水日数を各国共通で設定しているが、日照時間や土壌性状が異なり必ずしも各国の農業事情を反映した数値ではない。各国の栽培暦を精査し独自に散水頻度を策定したところ、例えばトウモロコシの場合、日本は50日、インドは38日、エジプトは95日となり、同じ作物であっても各国での散水日数が異なることが明らかとなった。下水処理システムにおけるE. coli等の衛生指標細菌減少のメカニズムには不明点が多いため、高い除去性能が確認されたDHS型下水処理装置を設計、設置し実験を開始した。E. coliを捕食すると考えられる原生動物に着目し、一般処理系と原生動物死滅系(真核生物のタンパク質合成を特異的に阻害する抗生物質シクロヘキシミド添加系)の2系列で実験を行ない、衛生指標細菌減少に及ぼす原生動物の影響を観察した。その結果、流入4日目のE. coli減少速度は、一般処理系(シクロヘキシミド無添加系)でy=-1.30、原生動物死滅系でy=-0.95となり、30%ほど一般処理系での減少速度が上回り原生動物によるE. coli減少への寄与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
概ね研究計画通りに進んでいると考えている。リスク算出条件については、各国の栽培暦に関する資料を収集し、その内容の精査を進めており、今後、各国の代表的な農作物に焦点を絞り条件設定を進めていく。また、下水処理行程別のE. coli減少効果も測定により確認されたため、今後は行程別の処理水を灌漑利用した際の水系感染リスクを単数栽培又は複数栽培の両方を想定し評価を進めていく。
平成28年度以降は、研究項目1と研究項目2を継続し、新たに分子生物学的手法を取り入れたノロウイルスのRNAを標的とする遺伝子検査(逆転写リアルタイムPCR法(qRT-PCR法))とノロウイルスの生物活性判断を開始する。平成27年度に実施したE. coliの検出は平板培養のため病原性を持たない菌数も測定してしまい、算出される水系感染リスクは過大評価となる恐れがある。そのためノロウイルス等の定量によりE. coli濃度との相関性やDALY(障害調整生命年)を算定し指標細菌としての意義や社会工学的評価(環境経済学的便益評価)を行う。一方、遺伝子検査ではウイルス生物活性の有無(生死)の判定が不可能であるため、PCR法の前処理に死滅細胞にのみ細胞内に浸透して遺伝子検出を阻害するPropidium monoazide (PMA)を使用することで生残するノロウイルスのみ検出する(研究項目3)。研究項目1から3により、衛生指標細菌とウイルス等の両面からの水質および水系感染リスク評価が可能となり、国内実験で実験・評価手法を確立した後、これらを国外対象国の試料に適用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) 備考 (1件)
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http://researchmap.jp/read0150357/