研究課題
日本の標準活性汚泥法では,流入下水に対する最終処理水の除去率として大腸菌2.6 log,ノロウイルス(GⅠ・GⅡ合算コピー数として)0.9 log(PMA処理無),1.4 log(PMA処理有)程度の減少が確認された。インドの下水処理UASB+ポンドシステムでは,大腸菌1.1 log,ノロウイルス1.3 log(PMA処理無),UASB+DHSシステムでは大腸菌0.6 log,ノロウイルス1.6 log(PMA処理無)の減少であった。この結果,大腸菌除去はポンドシステム,ノロウイルス除去はDHSシステムに優位性があることが示唆された。エジプトの下水処理最初沈殿池+DHSシステムでは,大腸菌2.1 log,ノロウイルス0.5 log(PMA処理無)の減少が確認された。PMA処理では失活状態のウイルスが増幅不可能になり,処理無試料と比較して定量濃度は低くなるはずであるが,日本の下水12試料中6試料ではPMA処理有の方が処理無より高い濃度で検出されたり,またはどちらか一方のみしか検出されないなど疑問が残った。一方,インド試料では12試料中1試料のみ濃度の逆転が見られたが,日本の試料と比べて異常値と判断できるものは少なかった。日本の試料はPMA試薬の反応を阻害するような因子が含まれている可能性が示唆されたが,これについては今後の検討課題としたい。得られた結果より,大腸菌感染リスク(年間許容値10-4 /年)とノロウイルスの健康影響評価(DALY,年間許容値10-6 DALY/年・人)を,各国の灌漑利用の現状を踏まえた条件(曝露頻度,曝露量)で評価した。その結果,日本の標準活性汚泥法の最終処理水を単数栽培(大麦,とうもろこし,水稲)で使用することは,大腸菌においては許容値を満足するがノロウイルスでは許容値を上回る結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
これまで主として日本,インド,エジプトで稼働中の下水処理システムを対象に,流入下水,中間処理水,最終処理水等の大腸菌とノロウイルスを測定し,システムの除去性能や処理水を再生水として灌漑利用した際の農業従事者へのリスク評価を進めてきた。リスク評価では曝露量や曝露頻度が各国の日射量や降雨量,作物品種の違いにより大きく異るため,土壌水分量や降雨量を加味した必要灌漑水量を再生水で補ったと想定して評価するなど,現地の実情に合致した評価条件が整いつつある。今後は,実験室に設置した下水処理DHSリアクターおよび実際に使用されている灌漑水も評価試料とし,分析試料数やターゲットとするウイルス種を増やして衛生リスクの信頼性を高めていく。
平成29年度は,下水及び下水処理水,灌漑水等の試料に対し衛生指標細菌およびウイルスを含めた水質調査を継続する。その調査結果を踏まえて,下水処理システム設置による指標細菌およびウイルスの低減効果を調査し,下水処理水利用時の農業従事者に対する健康リスクを評価する。これまでに得られた実験データや既往研究の文献値よりウイルス別の除去効果を下水処理技術別にデータベース化し,例えば下水処理システムの維持費用(電力量)と除去性能(log)を考慮した評価を行い,現地に適用可能な下水処理システムを提案する。また追加研究として,下水を用いた農作物栽培を行い,野菜果肉中の細菌濃度や野菜表面に付着した細菌の消長を測定し,野菜消費者に対する健康リスクを評価する上で必要な基礎データの収集を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)
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https://www.researchgate.net/profile/Tsutomu_Okubo
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