研究課題
(1)硬さを介したがん細胞と外部環境とのクロストークの解明平成27年度は、硬さを介したがん細胞と外場間のクロストークの定量相関の解明に挑んだ。具体的には、ポリアクリルアミドなどのハイドロゲルをベースとして、硬さの異なる細胞培養基板を作製した。そして、転移能の異なるマウスメラノーマ細胞(B16F10またはB16F1)を播種し、その投影面積と運動性を計測した。その結果、両細胞とも接着投影面積が基板硬さに対してシグモイド関数状に増加したが、柔らかく転移性の高いB16F10細胞の方が、柔らかい基板上でより大きく伸展することがわかった。がん転移においては、がん細胞は酵素などで軟化した環境中を移動する。よって本結果は、がん細胞が、細胞自身の柔らかさを制御することで、柔らかい環境での接着や運動に対応し、転移を実現していることを示唆している。また興味深いことに、がん転移抑制効果のある緑茶カテキンの存在下では、このようながん細胞の力学応答性が大きく低下することがわかった。現在このメカニズムについて、緑茶カテキンが示す細胞膜硬化作用に着目しつつ調べている。(2)がん細胞接着性のスクリーニング法の開発転移の重要ステップである細胞接着を定量計測するために、光干渉法と有機シランパターニング基板を組み合わせた、新しい計測系を構築した。ここでは、細胞接着性を示すアミノシランをパターニングした基板を用いて、単一細胞が配列したアレイを作製する。そして反射型光干渉法を用いて、細胞と基板間の接着面積を定量計測することで、細胞の接着性の統計データを簡便に得ることができる。本研究では、正常細胞、高転移性がん細胞、低転移性がん細胞の接着性を定量計測し、高転移性のがん細胞ほど接着面積が大きいこと、細胞接着面積が薬剤耐性の指標となり得ることなどを見出した。これら成果については、査読付き国際誌に原著論文を発表している。
2: おおむね順調に進展している
上記のがん細胞の接着性と運動性の評価は、研究実績は年度当初に計画していたものであり、原著論文の発表にも至っている。また、同じく年度当初に計画していた緑茶カテキンのがん転移阻害の分子機構の解明については、現在も実験が進行中であるが、既に主要な結果を得られており、論文化の目途がたっている。よって本研究はおおむね順調に伸展していると言える。
今後も、様々な機能性材料を用いて細胞培養基板を構築し、硬さをはじめとする外部環境因子に対するがん細胞の接着や運動の応答性を調べていきたいと考えている。特に最終年度までには、刺激応答性材料を使用し動的な細胞外環境におけるがん細胞の応答を調べることも計画している。また、リポソームなどの細胞モデル系を用いて、がん細胞力学応答の分子機構の解明も進める予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 謝辞記載あり 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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