研究課題
本研究では、生体組織が有する微細構造を規範にした機能性高分子ナノ薄膜を創製し、細胞・組織・器官の各階層間に生じる生体電気信号の計測・制御技術を開発する。具体的には、二次元構造を有する高分子ナノ薄膜を作製し、構成分子となる導電性高分子の集合構造やミクロ/マクロ相分離構造を制御することで、ナノ薄膜に導電性や柔軟性を付与する。さらに、印刷技術を利用して各種ナノ薄膜を複合化することで、生体運動時に生じる電気信号を計測・制御可能なナノ薄膜型電極を創製する。平成27年度の成果は以下のとおりである。(1) 導電性ナノ薄膜の作製と物性制御導電性ナノ薄膜の調製には、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)を用いた。ロール・ツー・ロール(R2R)法によるナノ薄膜の大面積化を試みたところ、製膜条件を各種検討することで膜厚を数十~数百ナノメートルの範囲で制御が可能になり、従来型のスピンコート法に対して面積を約3000倍まで巨大化させることに成功した。この時、生体適合性の可塑剤であるブチレングリコールをPEDOT:PSS水分散液に少量添加することで、製膜後の導電率が3桁上昇し、膜厚100 nm以上で500 S/cmを達成した。(2) 導電性ナノ薄膜の電気特性評価PEDOT:PSSとポリ乳酸からなる導電性ナノ薄膜(各層膜厚: 120 nm, 計240 nm)は、手首のような屈曲部に貼付可能であり、間接部を屈伸させた場合でも安定な導電性(450-500 S/cm)を示した。さらに、導電性ナノ薄膜を皮膚貼付型電極として利用したところ、ナノ薄膜を介して上腕部の表面筋電位を計測することに成功した。種々の生体組織表面に安定して貼付可能な導電性ナノ薄膜(電子ナノ絆創膏)は、運動時の動的な生体電気情報のセンシングに有用であると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度の研究計画では導電性ナノ薄膜の調製方法の確立と電気特性評価までを目標にしていたが、R2R法によるナノ薄膜の製造規模の拡大により平成29年度に予定している生体電気信号の計測実験を予備的に検討する段階まで踏み込めた。
平成27年度の研究成果より、導電性ナノ薄膜の製造には目途がついたので、平成28年度では、多孔質ナノ薄膜をはじめとした生体組織に調和する物性(構造・機械物性)を有するナノ薄膜の開発を進める。また、微細構造を有するナノ薄膜を用いて細胞の組織化制御についても検討し、平成29年度に予定している生体組織から生じる電気信号の計測および制御に繋げる。
(1)「電子ナノ絆創膏」に関するプレスリリース(2)所属機関の研究者紹介ページ(3)所属グループのホームページ
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 図書 (1件) 備考 (3件) 産業財産権 (4件) (うち外国 1件)
Polymer J.
巻: 48 ページ: 157-161
10.1038/pj.2015.95
J. Biomed. Mater. Res. B
巻: 104 ページ: 585-593
10.1002/jbm.b.33429
化学工業
巻: 67 ページ: 49-54
J. Mater. Chem. C
巻: 3 ページ: 6539-6548
10.1039/C5TC00750J
Acta Biomater.
巻: 24 ページ: 87-95
10.1016/j.actbio.2015.05.035
Stem Cell Rev.
巻: 11 ページ: 866-884
10.1007/s12015-015-9618-4
http://www.takeoka.biomed.sci.waseda.ac.jp/
https://www.waseda.jp/top/news/34735
http://www.waseda.jp/wias/researchers/list/profile/prof_t_fujie.html