研究課題
本研究では、生体組織が有する微細構造を規範にした機能性高分子ナノ薄膜を創製し、細胞・組織・器官の各階層間に生じる生体電気信号の計測・制御技術を開発する。平成28年度の成果は以下のとおりである。(1) 多孔質ナノ薄膜の作製と構造解析非相溶性の高分子ブレンド溶液(ポリ乳酸・ポリスチレン)を用いて、マクロ相分離構造を有する自己支持性ナノ薄膜を調製した。任意の溶媒を用いてポリスチレン相を溶解することで、多孔質構造を有するポリ乳酸ナノ薄膜を得ることに成功した(膜厚: 150±12 nm, 平均孔径: 4 um, 開孔率: 40%)。次に、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体(SBS)を用いて、エラストマーからなるナノ薄膜を調製した。原子間力顕微鏡にてSBSナノ薄膜の表面を走査したところ、ポリスチレン相とポリブタジエン相に由来するミクロ相分離構造が認められた。調製したSBSナノ薄膜は従来のポリスチレンやポリ乳酸ナノ薄膜と比較して、伸縮性に優れることを見出した(ヤング率: 5.7 MPa)。(2) 多孔質ナノ薄膜を用いた細胞の組織化制御多孔質ナノ薄膜上に骨格筋筋芽細胞(C2C12)または脂肪組織由来幹細胞(ASCs)を播種したところ、細胞外マトリックスを構成する主要なタンパク質であるFibronectin、Collagen IV、Lamininの分泌が確認され、多孔質ナノ薄膜が細胞接着の足場として機能することが見出された。次に、Fibronectinを表面に修飾した多孔質ナノ薄膜に細胞を播種し、これを積層することで3層構造の細胞組織体を得た。この時、Bradford法にてタンパク質を定量したところ、積層数に依存して分泌タンパク量が増加することが見出された。また、細孔を持たないナノ薄膜と比較して、多孔質ナノ薄膜では有意に分泌量が増加した。以上より、ナノ薄膜への多孔質構造の導入は液性因子の透過性向上に有用であり、3次元状培養組織の作製や細胞移植療法への応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度で目標としていた多孔質ナノ薄膜の調製およびナノ薄膜表面での細胞培養手法を確立した。また、平成29年度で予定しているインクジェットプリンタによるナノ薄膜表面への回路印刷の段階まで踏み越むことができた。
これまでの成果より、生体信号を計測可能な導電性ナノ薄膜と細胞を担持可能な多孔質ナノ薄膜の調製に成功した。平成29年度では、これらの基盤技術を融合させることで、組織・臓器・個体各層における生体情報の計測や機能制御に取り組む。
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