研究課題
脳外科疾患の診断や治療で皮質脳波は広く用いられており、血液動態の有用性も示されつつある。これまで申請者は、上記二つの指標を同時計測する頭蓋内留置可能な小型デバイスを開発した。また、てんかん発作を引き起こす脳の疾患領域において、発作時の局所的な温度上昇を明らかにした。これらから、脳表の温度や血液動態と電気的活動を、低ノイズな慢性留置環境下で計測できれば、より高精度かつ多面的な脳機能診断が可能となるとの着想を得た。そこで本研究では、皮質脳波・脳表温・血液動態を同期計測する埋め込み型デバイスを開発することで、てんかんや脳腫瘍、脳動脈瘤などの、診断精度が手術予後に直結する脳外科疾患への応用を目指し以下の研究を実施した。脳表を直接NIRS計測した際の感度分布はバナナ状で、送受光器間距離の場合、脳表から深さ1mm程度の領域において計測感度が低く、神経活動との関連が深い表層の微小血流の動態が捉えにくい。光路直上に皮質脳波計測用電極を配置すれば、組織外へと散逸する光を反射させることで電極直下の感度を選択的に向上できるが、その効果は電極材料、大きさや形状、配置位置によって異なり、計測精度に大きく影響することが推定された。そこで本研究では、光伝搬シミュレーションをもとに電極の材料を金または白金、パターンを直径3㎜の円形と決定した。それをもとに各1チャンネル分のNIRS用光学素子、電極、測温素子を実装した基礎デバイスを試作し、光学ファントムならびに近赤外光強度計測機能を備えた高性能顕微計測システム(H28年度備品費に計上)を用いて評価した。さらに、ネコを用いてマルチモダリティ計測機能を検証した結果、いずれの指標も十分な精度で計測できることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
一部装置納入時期を次年度に繰り越したものの、次年度実施予定だったものを当該年度に実施したことで特に全体の進捗には影響は出ず、おおむね順調に進展していると判断できる。
次年度に繰り越して実施することとした高性能顕微計測用電動ステージの導入ならびに同専用チャンバーの試作を優先的に実施するとともに、当初計画していた以下の研究を実施する。4チャンネル以上のセンサ群を実装した計測デバイスを試作する。これまでは配線層が2層の基板(厚さ90μm)を用いていたが、素子数の増加による配線部分の大型化を避けるために、3層の配線層(厚さ120μm程度)を実現できるよう基板製造工程を改良し、臨床用硬膜下ストリップ電極の大きさ・厚みを超えない慢性留置に適した形状のデバイス実現を目指す。サル・ネコ等の大型動物を用いた試作デバイスの機能検証と、得られた結果のモデルへのフィードバックによる計測精度向上を実施すると共に、実験動物への慢性留置下でデバイスの生体適合性・耐久性試験を行う。脳外科疾患の診断・治療においては最大2週間程度の慢性留置が考えられる。留置下のグリオーシス(異物反応によりデバイスと脳の間にグリア細胞の膜ができる)によって電極機能の劣化がないことは実証済みで、またグリア薄膜は近赤外光を透過するのでNIRS計測への影響も無視できるが、測温精度には大きな影響が予想される。そこで、前年度に開発した単チャンネルデバイスを多数のラットに慢性留置し、統計データをもとに長期的変化も包含した熱伝導モデルを構築する。このモデルを少数のサル・ネコに留置した多チャンネルデバイスで検証・改良することで、長期留置による測温精度の劣化を補正する。
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自動車技術会論文集
巻: 48(2) ページ: 463-469
IEEE Transactions on Biomedical Engineering
巻: 63(6) ページ: 1321-1332
10.1109/TBME.2015.2512276