脳外科疾患の診断や治療で皮質脳波は広く用いられており、血液動態の有用性も示されつつある。これまで申請者は、上記二つの指標を同時計測する頭蓋内留置可能な小型デバイスを開発した。また、てんかん発作を引き起こす脳の疾患領域において、発作時の局所的な温度上昇を明らかにした。これらから、脳表の温度や血液動態と電気的活動を、低ノイズな慢性留置環境下で計測できれば、より高精度かつ多面的な脳機能診断が可能となるとの着想を得た。そこで本研究では、皮質脳波・脳表温・血液動態を同期計測する埋め込み型デバイスを開発することで、てんかんや脳腫瘍、脳動脈瘤などの、診断精度が手術予後に直結する脳外科疾患への応用を目指している。 これまでの研究開発において、ストリップ型のデバイスは神経機能異常(てんかん等)が原因の等方性または脳回単位での広がりをもつ病変の特定には有効だが、循環異常(脳梗塞等)を原因とする異方性の広がりをもつ病変の特定には、硬膜下グリッド電極のように平面的な計測を要することを明らかとなった。 そこで、平面基板上にグリッド状にセンサ群を配置したデバイスを試作し、大型動物において検証した。さらに、山口大学脳外科所蔵の臨床用NIRS 装置との比較により、頭皮計測と脳表計測の差異から非侵襲診断の誤差要因が介在組織およびそれらにおける血流アーチファクトであることを明らかにした。 それらの結果をもとに、硬膜下に留置した提案デバイスにより頭皮からの近赤外光が遮断されるのを防ぐために、光伝搬モデルを硬膜・頭蓋骨・頭皮を含む多層モデルへと拡張し、サブmM精度のヘモグロビン濃度変化の計測に成功した。
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