本年度には、前年度までの光遺伝学実験の問題点「視床下部室傍核(PVN)から延髄吻側腹外側野(RVLM)への投射神経刺激時の交感神経・循環反応が小さい」の解決に当たった。知り合いの研究者より、使用実績のあるアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)の恵与を受け、光受容タンパク質のラット脳内発現を検討したところ、前年度までに使用していたAAVよりも格段にタンパク質発現量が増えた。このAAVを用いた光遺伝学によるラットPVN-RVLM神経軸索の刺激は、有意な交感神経活性と昇圧・頻脈応答をもたらした。共焦点顕微鏡観察からPVN-RVLM神経の軸索末端は小胞グルタミン酸トランスポーター2を含有し、RVLM C1神経細胞に近接することを確認した。このことから、PVN-RVLM神経はグルタミン酸作動性であり、この神経刺激時の交感神経活性はRVLM C1神経の興奮を介する可能性が考えられた。PVN-RVLM神経がグルタミン酸作動性であることは、RVLMにグルタミン酸受容体阻害薬を注入することでPVN神経刺激時の交感神経活性が抑制されたことからも、実験的に支持された。 また、光遺伝学による覚醒ラットPVN-RVLM神経の活動操作にも取りくんだ。予備実験として、延髄を照射標的とした光刺激のための光ファイバーをラット頭蓋骨の後方に留置したところ脳の損傷が著しく、人道的エンドポイントを取らざるを得なかった。頭蓋骨に覆われていない延髄領域が体動によって動くことが原因であり、ラット延髄を光刺激標的とした光ファイバー留置では避けられないと判断した。そのため、この手法によるPVN-RVLM神経の活動操作は断念せざるを得なかった。
|