研究課題
平成27年度は、以前より行ってきた研究の立ち上げと初期データの取得を行った。以下にその内容を記す。本研究では、欲求が動物の行動と判断を調節する神経メカニズムを明らかとすることを目的としている。欲求の程度に応じて柔軟に行動を調整することは、ヒトを含む動物が備え持つ基本的で重要な脳の仕組みであり、この過程には、視床下部と連絡を持つ、前頭葉や大脳基底核、辺縁系などの複数の神経回路が関わる。特に、価値判断の中心と考えられる前頭眼窩野や腹内側前頭前野が欲求の程度に応じて意志決定を調節すると考えられる。このような脳の認知機能を明らかとするために動物実験を行うが、そのためには、複数の実験設備を整備することが必要となる。具体的には、動物から神経細胞活動を記録するための記録装置、動物を訓練するための装置、飼育設備、実験の遂行に必要な手術を行うための装置などが挙げられる。申請者は、本研究計画を開始する前のH26年度より実験設備の整備を徐々に進めるとともに、動物の行動訓練を行ってきた。27年度本年(計画初年度)には、次の二つの実験装置の整備を進めた。1.神経細胞活動の記録装置を購入し、神経細胞活動データの取得を開始した。2.これまで一時的に借用していた動物の実験用椅子を新たに購入し、実験設備の整備を進めた。実験に必要な装置は依然借用中の物品が多く、引き続きこの研究計画の実施中に整備を進める。取得した実験の初期データの解析を、現在進めているところである。データの取得に際しては、価値判断を行う行動課題を動物に訓練し、その後、核磁気共鳴装置を用いて脳活動を記録するための脳部位の同定を行った。その後、背側線条体と腹側線条体から約150個の単一神経細胞活動を記録した。現在、仮説に基いて欲求依存的な価値信号が観察されるかを検証するために、初期データの解析を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
27年度は、本研究計画の開始1年目として、一番の目的である実験の立ち上げを行った。更に、初期データを取得することで、計画の目標を十分に達成した。上の研究実績概要の記入欄で述べたように、動物実験を行うには多数の実験装置の整備、動物の訓練や手術、工作など、多くの時間と労力を必要とする。特に、実験装置の整備と動物の訓練に要する時間は長く、実験に必要な装置の一部を借用することで効率的に準備を進めることができた。予定を前倒しして実験の準備を進めてきたことで、計画の一年目に神経細胞活動データを取得することができた。
計画1年目の27年度は、順調に実験の立ち上げを行うことができた。この状況を継続し、仮説の検証に必要な実験データを取得する。そのためには、次の2点を重点的に達成できるように研究を進める。1)本研究分野では、複数の動物より実験データを取得し、各動物で同様の結果が得られることを確認する必要がある。現在、2頭めの動物について初期訓練を開始しており、28年度中に行動課題の訓練を終えられるように実験を進める。2)現在実験データを記録中の動物からは、予定していた資料数の3分の2程度を取得したところである。28度の早い時期に、残りの神経細胞活動を取得し、仮説を検証するための解析を進める。仮説検証のためのデータ解析を推し進め、より頑強な結果を早期に取得する。計画がうまく前進している現状を継続し、更に本研究を発展させる。
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