欲求の程度に応じて柔軟に行動を調整することは、ヒトを含む動物が備え持つ基本的で重要な脳の仕組みである。本研究は、この脳の仕組みを明らかとすることを目的に、平成27年度から平成29年度までの3年間で、研究の立ち上げから実験データの取得、解析を行った。平成29年度は、昨年度より続けていた実験データの取得を、計画に従って全て終了した。その後、取得したデータの解析を行い、重要な結論を得た。また、これまでに行った研究の成果を論文として報告した。以下に、その具体的な内容を記す。 本研究では、欲求が動物の行動と判断を調節する脳の仕組みを明らかとするために、価値判断を行っている実験動物から単一神経細胞活動を記録した。価値判断に中心的な役割を果たすと考えられている線条体から神経細胞活動データを記録した。神経生理学の研究では、マカクザルを最低2頭用いる必要があるため、2頭の動物の線条体から合計約400個の神経細胞活動を記録した。仮説に基いて欲求依存的な価値信号が観察されるかを検証するための解析を行った所、次の二つの結論を得た。 1.腹側線条体の活動は、背側線条体に比べて、短い潜時で強い価値の信号が観察された。 2.腹側線条体の活動が期待価値の信号を反映した一方で、背側線条体の活動は、期待価値を構成する報酬の確率や価値を別々に反映した。今後、学会発表を行い、結論をブラッシュアップすると共に、論文として成果を公表する。最後に、本年度は本研究計画に関連して進めてきた研究の論文を2本出版した。
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