本研究は、江戸時代の藩政資料及び地方史、鎌倉時代以降の染織技法書と染織技法が描かれた絵画資料の調査研究、それらの技術に対応する染織品や実物調査、さらに現地における染織技術調査を基盤として推進した。前年度は、1.日本における染織技法の分布(平成30年度版)の整理と実地調査、及び2.中世以降の日本における染織技法の分布の整理を行った。本年度は昨年度から引き続き2を中心に分析作業を行った。 1.現在の日本における染織技法の分布(平成30年度版)の整理と実地調査 昨年度整理した染織技法の分布に今年度の指定情報・解除情報等の確認を行い更新した。さらに、昨年度までに調査を行った友禅染の道具や材料に関する調査(技術者への聞き取り調査及び友禅染の工程映像)を報告書にまとめた。また、葛布・芭蕉布等の靭皮繊維の工程調査、昨年度、調査・撮影した岡谷蚕糸博物館所蔵の9種の繰糸器(機)について映像の編集作業に着手した。 2.中世・近世・近代の日本における染織技法の分布の整理 本研究に先立ち、申請者は室町時代以降の文献資料(227件)に見られる染織技法や、技術の担い手、用いられた道具等に関する情報を整理してきた。さらに、本研究では新たに情報を補完すべく都道府県史を中心に染織技術の関連項目についての情報整理を行ってきた。本年度は、全都道府県史(約250冊)から染織関連項目について、特に技術交流の項目については情報の欠落などの見直しを行いながら記述の抽出および整理を進めた。本研究は本年度が最終年度であるが、膨大な情報の精査はまだ不十分な状態であり、多くの課題が残っている。しかしながら、本研究により抽出された情報は、我が国の染織技術の伝承を考える上では重要な基礎情報である。今後も、当該地域によって担っていた職掌なども考慮しながら残された課題を検討していく。
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