研究課題/領域番号 |
15H05380
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
吉岡 乾 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 助教 (20725345)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 言語学 / 記述言語学 / ブルシャスキー語 / ドマーキ語 / カティ語 |
研究実績の概要 |
本年度は現地調査を6月(パキスタン北東部ギルギット・バルティスタン自治州フンザ・ナゲル県フンザ谷;①②)と、7月(インド北西部ジャンムー・カシミール州スリナガル市;③④)の計2度実施し、主に以下の内容で調査成果を挙げた。①ブルシャスキー語フンザ方言の語彙・物語収集を行った。②ドマーキ語の語彙・物語収集を行った。③ブルシャスキー語スリナガル方言の文法調査、語彙・物語収集を行った。④カシミーリー語の文法調査を行った。 ①ブルシャスキー語フンザ方言に関しては、物語、歴史語りの録音、録画を中心に、発話データを増やすことを目指した。前年度のスリナガル調査の際に聞き取った歴史語りと同じ史実について語って貰い、両側の歴史観の対比を試みようと考えたのだが、いずれも聞き及んだ記憶に頼っているわけではなく、台本となる歴史書が手許にあるらしく、大差はなかった。 ②ドマーキ語も発話データを増やすつもりで、物語の録音、録画を中心に進めた。10年振りくらいでナゲル谷のドマーキ語話者の元へも訪れ、物語を収集したが、同行していたフンザ方言話者に聞かせても半分ほどしか分からなかったとのことなので、方言差は予期していたよりも大きそうである。但し、ナゲル方言の男性話者は残り1名しかおらず、宗教的理由から女性話者とは会えないため、今後の調査の方針を早く、よく練らないと、ナゲル方言の詳細調査は難しいであろう。 ③スリナガル市のブルシャスキー語調査は前年度の続きであった。新たな発見としては、若年層が名詞クラスのシステムを大幅に違えていることの発見である。本来の体系の中の、「具象物」・「抽象物」という2クラスを、「動物」・「具象物」・「抽象物」という3クラスに再編していることが判明した。 ④カシミーリー語に関しては、節連結表現の調査を中心とした。 成果公開は、国際学会で1回、国内学会・シンポジウムで2回口頭発表をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インド北西部ジャンムー・カシミール州での昨年夏からの反政府運動、外出禁止令発布、パキスタン国内へのテロ組織「イスラーム国ホラサーン州(IS-KP)」の侵出など、政情不安があり、思うように現地調査を進められていない。「イスラーム国(IS)」のシリア、イランでの大きな変動があったため、アフガニスタンに中心拠点のある「IS-KP」の動向予測が難しくなり、大事を取って8月に予定していたパキスタン北西部への調査も取り止めた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度で、本研究課題の成果のまとめに向かわなければならない。 調査が当初の予定ほど進められない状況が継続しているため、手持ちのデータをまとめる方向で考え、現地調査で新規にデータ収集してそれを盛り込むという目途は立てない方針とする。但し、まとめ作業の進捗に合わせて、現地調査も途切れさせない程度には実施したい。 成果目標は、東ブルシャスキー語(ブルシャスキー語フンザ・ナゲル・スリナガル方言)の記述文法の仕上げ、ドマーキ語の記述文法の下準備(文法スケッチ、或いは記述文法そのものの執筆)を目指し、機を見て諸言語の文法項目に関して、口頭発表での成果発表もしていく。 平成30年度の現地調査は、[1]パキスタン北東部、[2]パキスタン北西部、[3]インド北西部の優先順で、最大3回実施する。
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