本研究は、アラビア語で記されたイスラーム政治思想書(特に神学書)の写本を、テキスト批判や書誌学、写本学の手法を用いて整理・分析し、現代の中東や国際社会に大きな影響を与えている「イマーム論」ないし「カリフ論」の学問的継承と発展の過程を明らかにすることを目的としている。具体的には、イスラーム思想における神学書写本の数量データを収集し、イマーム論の継承過程や需要などを数量的に把握することが目的となる。 2018年度は夏季および春季休暇中にそれぞれ2週間、3週間弱、トルコ共和国イスタンブル市に滞在し、同市にあるスレイマニイェ図書館において、神学書写本のデータ収集を行った。夏季調査においては、研究協力者1名の協力を仰ぎ、特にAyasofya分類の写本データの遺漏について調査・加除修正を担当してもらった。橋爪はCarullah分類、Damad Ibrahim分類、Beshir Aga分類の計400写本のデータ入力を行った。春季調査は橋爪が単独で行い、Laleli分類の神学写本計150件のデータ入力と合わせて、学問的継承の過程を探るべく、ナサフィー著『ナサフィー信条』とそれに対する注釈書、その注釈書に対する注釈書がどの程度存在するのか、系統図の作成とともに調査した。 また2018年12月にはオスマン朝期の「イマーム論(カリフ論)」の様相を提示すべく、国際シンポジウムにおいて、スレイマン1世の宰相を務めたルトフィー・パシャの手による政治論考の内容とその思想的背景について、これまでの写本調査の成果に基づき、口頭で発表した。 また夏季、春季調査の成果を順次Researchmapの資料公開ページにて公開している。ただし、まだ未整理の状態であるので、今後整理したうえで正式なものを提示する予定である。これまでに写本のデータとしては、3313件収集した。
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