今年度(平成30年度)の研究においては、「アンデス文明の初期形成を、従来「周縁」とみなされてきたペルー南部から捉えなおす」という研究全体の目的の中で、同時期の文化的中心とみなされる中央高地の大神殿と終焉地域との関係に焦点を当てた調査をカンパナユック・ルミ遺跡で行った。同遺跡では2016年に行った発掘調査によって、ペルー南部では極めて珍しい発見となる円形半地下式広場の一部が発見された。この発見によって、600km離れた同時期の中心的な神殿であるチャビン・デ・ワンタル神殿とカンパナユック・ルミ神殿が宗教的に密接な関係にあったことが示唆された。そこで今年度は広場の全体像とその機能を明らかにするための発掘調査を行った。発掘によって、円形広場が丘の上を掘り込んで建造されていたこと、その閉鎖時に至るまで極めて入念に清掃がなされていたこと、広場を閉鎖し埋め立てる際には大規模な饗宴を伴う終末儀礼が行われていたことが明らかとなった。広場全体を発掘したことにより、建築軸と広場のアクセスとの対応関係、チャビン・デ・ワンタル神殿との建築様式の類似性が明確となり今後の分析によって儀礼行為を復元するための重要な手がかりが得られた。建築年代と閉鎖年代を特定可能な良好な層位からの炭化物サンプルも得られており、将来的な年代測定を通じて他地域の神殿遺跡との編年的な関係を精緻化する事が可能となった。なおこの発掘調査における発見はペルー国内において新聞等複数のメディアにおいて報道された。遺跡周囲で行った踏査によって、神殿が機能した時期の後半に居住されていた可能性がある区域が新たに見つかり、カンパナユックツ神殿を支えた集落が地域間交流の活発化と共に拡大したという仮説を裏付ける成果が得られた。また、この踏査の副産物として新たな黒曜石の露頭が確認され、分析の結果神殿で見つかったものと同じ化学組成を示すことが判明した。
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