研究課題
本研究は、弓矢技術の存在を示唆する間接的・直接的な考古学的証拠を多角的に集成・分析し、弓矢猟の出現と波及プロセスを解明する。そのため、弓の投射実験によって石器に生じるマクロ・ミクロ痕跡の解析をおこない、それに基づいて考古資料の分析をおこなう。これにより、弓矢猟の出現期を明らかにする。また、石鏃、矢柄研磨器、弓のデータベース構築を行うことで、弓矢猟が波及するプロセスを定量的に評価する。平成28年度は、前年度におこなった投射実験試料の解析を進め、考古資料を分析する上で有効となる指標設定を試みた。また、この指標に基づき、考古資料の分析を進めた。分析する考古資料は、ドイツ・ケルン大学に所蔵されているネアンデルタール(中期旧石器時代)とホモ・サピエンス(後期旧石器時代)の狩猟用石器を選定した。当資料をケルン大学先史学・原史学研究所にて分析し、両人類の狩猟具の投射方法の違いに関して検討した。また、日本国内で出土した後期旧石器時代の狩猟用石器の分析も進めた。以上の実験試料の解析と考古資料の分析は、初年度に購入したデジタルマイクロスコープKeyence VHX-5000を用いて行った。また、晩氷期の石鏃、矢柄研磨器、弓の数・属性・年代値に関するデータベース作成から、成果報告に必要な図版作成を進めた。さらに、年代値の解析を進め、弓矢猟が増加していくプロセスを絶対年代値に基づいて定量的に評価するための基礎データを構築した。鳥浜貝塚から出土した弓の内、三次元形態計測をおこなう資料選出は初年度に研究協力者(若狭歴史博物館:鯵本眞友美)と共に行った。平成28年度は、当遺跡の縄文時代草創期(晩氷期)の層から出土した矢柄研磨器の三次元形態計測を行った。これにより、矢柄の径を矢柄研磨器の溝幅から間接的に復元した。当三次元形態計測は、初年度に購入したハンディ3DスキャナArtec Spiderを用いて行った。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度は、後期旧石器時代初頭の台形様石器の分析結果をまとめ、日本列島にやってきた最初のホモ・サピエンスが、既に弓矢技術を獲得していた可能性が高いことを明らかにした。本成果は、国際誌Journal of Archaeological Science: Reportsから出版した。この他にも、本研究課題の成果の多くを平成28年度に出版することが出来た。
平成29年度以降も、投射実験試料の解析結果を基に設定した指標に基づき、考古資料の分析を進める。ヨーロッパに最初に拡散してきたホモ・サピエンスの人骨が出土したことで有名なイタリアのカヴァロ洞窟の狩猟用石器(三日月形細石器)の分析を行う。本調査は、研究協力者であるシエナ大学アドリアーナ・モローニ博士の協力を得て進める。これにより、西ユーラシアに拡散したホモ・サピエンスが、既に弓矢技術を所有していた可能性を検証することが出来る。また、日本国内で出土した後期旧石器時代初頭の狩猟用石器の分析も各地の埋蔵文化財センターで進める。以上の考古資料の分析は、初年度に購入したデジタルマイクロスコープKeyence VHX-5000を用いて行う。また、鳥浜貝塚から出土した日本最古の弓の三次元形態計測をハンディ3DスキャナArtec Spiderを用いて行う。鳥浜貝塚の調査は、研究協力者の福井県立若狭歴史博物館・鯵本眞友美氏の協力を得て進める。上記の分析で得られたデータの整理・解析は、学生補助の協力を得て進める。また、昨年度は、晩氷期の石鏃、矢柄研磨器、弓の数・属性・年代値に関するデータベースと図版作成を進めた。また、年代値の解析を進め、弓矢猟が増加していくプロセスを絶対年代値に基づいて定量的に評価するための基礎データを構築した。今後は、これらのデータを基に論文作成の準備を進める。昨年度までに行った研究の成果は、随時国際誌に投稿する。また、6月には日本旧石器学会、9月にはヨーロッパ人類進化学会にて研究成果を発表する。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件) 図書 (2件)
Journal of Archaeological Science: Report
巻: 10 ページ: 130-141
doi: 10.1016/j.jasrep.2016.09.007
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 113 ページ: 11184-11189
doi: 10.1073/pnas.1607857113
3D考古学の挑戦―考古遺物・遺構の三次元計測における研究の現状と課題
巻: - ページ: 53-57